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「っぁった、」
《えっ、ま、ちょ、》
安堵が体に入っていた力を抜き去り、思わずその場で崩れ落ちる。取り落としてしまった携帯から刀也先輩の焦ったような声が聞こえたけれど、緊張の糸と共に切れてしまった涙腺のせいで涙が溢れ声を出すこともままならない。
私がぐずぐずとしていたせいですっかり人のはけてしまったこの場所に、先ほどまで心細さがあったのに今は誰もいなくてよかったと思う。
「っ名前!」
彼の走ってくる音と、私を呼ぶ声がよく聞こえるから。
パタパタと足音を響かせて走ってきた彼は私のそばにしゃがみ込んだ。泣いている顔を見せたくなくて膝に顔を埋めたままだけど、何となく気配でそれを知る。
「……泣いてる?」
「泣いてません」
「泣いてんじゃん嘘下手か?」
「うるさい」
「……どうだった?」
「受かって、ました」
瞬間、ぐい、と引かれた体。思わず体勢を崩し地面に膝をつく。ふわりと鼻腔くすぐったのは彼の家の柔軟剤。サボンだとか何とか、聞いた事があったけど正式名称までは覚えていない。背中に回ったのはもしかしたら私よりも細いかもしれないのに筋肉がついてしなやかな腕。
少し痛いくらいに抱きしめられて、嫌でも彼の胸元に顔が埋まる。…嫌ではないけど。
「…おめでとう」
「……っありがとう、ございます」
ばらばらと落ちていく涙は絶対に彼の服を濡らしていても、途中チャイムが鳴って人がゾロゾロとキャンパス内に溢れかえっても、彼は私が泣き止むまでその腕を離さなかった。
「うわすごい数連絡来てる」
「…めっちゃ写真撮られてましたからね言っておくと」
「僕明日から大学で立場ねぇよ」
「私が入学する前から立場ないですよどうしてくれるんですか」
「……僕といれば良くない?」
「えっやだ」
「人の勇気を踏みにじるのがほんとにうまい」
「刀也先輩なんだかんだ人気者じゃないですかやです先輩から達の中に入ってたら同級生と仲良くなれない」
「お前はどこででもすぐ友達作るくせによく言うよ」
「人前で異性に抱きしめられてたなんて前情報がない時の話ですよそれ」
「まじでその言い方やめろ」
「事実です」
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月28日 22時