おもい、重い、想い ページ40
日も暮れてきた茜色の空が鮫島の部屋に差し込み、葛葉の銀髪を朱色に染めている。鮫島の髪もこんなふうに染まったのだろうか。剣持はふと眉尻を下げ困ったように、それでいて楽しそうに自分に笑いかける鮫島を思い出した。
あの人は僕らに何を伝えたいのだろう
剣持の知る鮫島は意味もなく他人の情緒をかき乱すような真似をすることはなく、今回の挑戦状は死んでも尚このバーチャル世界を盛り上げたいなんてそんなことじゃないかと剣持は考えていた。
けれど、たしかに。
葛葉の言う通り今剣持達が精神をすり減らしながら挑んでいるこれは、誰のためかと問われた時、それは間違いなく鮫島のためなのだ。
それならば
「…僕は、委員長と咬くんのどちらを優先するかと聞かれれば悩んだ末に咬くんを優先します」
「…はい」
月ノの返答に固く力が籠っている。
「それは、友人としてより近しい位置にいるのが咬くんだからです」
「はい」
「僕はこの挑戦状の答えが知りたい。僕が憧れた男の、最後に残したこれをやり遂げたい。怖ければ、目を瞑っていてください。耳を塞いでいて下さい。全て終わった後にあなが傷つかない部分のみを伝えます。これが、僕なりのあなたの気持ちの汲み方です」
「……言い方がキツイですよ剣ちゃん」
暫くして聞こえてきた月ノの声にいつの間にか足元に落ちていた視線を引き上げる。怖かった。彼女は、自分が尊敬している人間なのだ。もしも自分の言葉で目の前のこの人が心を痛めたら、涙を流したら、そんな想像がよぎるだけで剣持の心臓は竦んだ。
しかし、目に映った月ノはそんな剣持の想像とは似てもつかない、まさに今から戦場へ足を踏み入れ大将の首をぶんどってきそうな下手したら今まで剣持が見てきた月ノのどの表情よりも勇ましいそれを浮かべていた。
「わたくしはこの中で誰よりも鮫島さんとの付き合いが長いんですよ。鮫島さんの残す遺産は誰よりも多く貰わなくては」
「遺産…」
「だから、早く続きをやりましょう。でないと夜になってしまいますよ」
にぃと笑う月ノは「さ、早く!」なんていってつい先程弾き飛ばされた葛葉のスマートフォンを拾い上げる。
「あぁこれダメですよ葛葉さん、完全に液晶いってます」
「えーもちさん弁償もんすよ」
部屋の空気はいつの間にか元に戻っており、剣持は呆気からんとした二人の、どうしようもなく普段通りの態度に思わず「やばぁ」と声を漏らした。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月9日 15時