そのライバー、殉職。 (ページ38)

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胸糞悪いページ38

心当たりがあった。

せっかく、自ら仲の良かった先輩の死を他人事だと思い込ませ、それでも埋まらない喪失感を仲間への心配で、仲間をこんな状態に陥れた先輩への怒りで誤魔化していたのに。

挑戦状だ？最後の言葉だ？

馬鹿にしているのか

お前がいなくたって、あんたひとり消えたところで、この世界は何も変わらないんだ。

ようやく小さなその穴を埋められそうだったのに、それをわざわざほじくり返して、一体何がしたいんだ。

葛葉とて、鮫島の死を軽く受け止めている訳ではなかった。
まだ男性ライバーの少なかった時代に皆を照らす一等星となってその道を切り裂いた男が、先輩として、またある時は友人として自分を引っ張ってくれた鮫島が、死んだのだ。

その時、ぼんやりと思ったのは「俺はまだ生きている」という事実だけ。

「俺はエメフェラだよ」

鮫島は、時折そんな事を言っていた。

エメフェラという言葉の意味自体は知っていた。しかし、鮫島が自身をエメフェラだと言う意味が理解できなかった。葛葉が一生かけても読み切れないほどの作品を狂愛的に読み返してきた鮫島のことだから、なにか他の意味があるのかと思う事もあった。葛葉は鮫島咬の事を葛葉たちライバーにとって鮫島を愛するリスナーにとって半永久的なものだと認識していたから。

しかし、今となってみればあの言葉は鮫島が葛葉たちに自分がいついなくなってもそれはそう決められていたことでありなにも不自然なことでは無いのだと、そう諭していたのではと。

葛葉は自身の特徴でもある鋭く尖った歯が、薄い皮を裂いて唇に突き刺さるのを感じた。ぷつり。錆びた鉄の味が口内で広がる。

なぜ、目の前の小さな女が発した言葉でこうも自分が何も言えなくなるのか。
なぜ、俺とその女を除く二人はそんなにも表情を悲痛に歪めるのか。

気がついた時には葛葉の手は尻ポケットに収めていたスマートフォンの電源をつけていた。
そのまま見慣れた青いアイコンをタップする。

いつもと違うのは、その手が新たなアカウントを追加するために左上に位置するプラスマークへ移動したことだ。

s h a r k _ g a o
23firstkou

先程のアラームで知った文字列をそれぞれの欄に打ち込み、

「……ブックマークは無しリストも無しDMは同業者だけ、これ、ほんとに謎解きに関係あんの？ログインさせる意味ないっしょ」

葛葉は既にログインを終えた鮫島のTwitterアカウントが表示されたスマートフォンをぷらぷらと揺らしてみせる。