おねむの時間 ページ31
あぁそうだ。鮫島は死んだのだ。
この部屋にひょっこりと顔を現すこともひまわりを見つけてその顔に緩い笑顔を浮かべることももうしないのだ。
もう、どこにもいないんだ。
「…ハサミあったよ」
自身の名を呼んだ葛葉を振り返るようにしてひまわりは下瞼だけで笑ってみせる。
そんなひまわりに葛葉は「ん」と喉から1音だけ落としハサミを受け取った。そしてそのままバケツリレーの様にしてハサミは剣持の元へと渡っていく。
「切りますよ」
剣持の手に納まった鈍く光るハサミの刃がサメの腹を留める白い毛糸と布の間にそっと差し込まれる。
切りますよ、の言葉通り剣持は躊躇すること無くその取っ手に力をかける。2枚のアルミ板が擦れる小気味いい音が響き毛糸はふっつりと2つに絶たれた。
葛葉と月ノ、ひまわりの視線が一緒くたに絡まりサメの腹へ注がれる。
「…中に、何が?」
月ノの呟きに剣持は無言のまま、まだ糸のぶら下がるそこへ細く節ばった人差し指と中指を差し込んだ。
カサリ
剣持の指が第2関節まで呑み込まれた時、小さく乾いた音がなった。剣持の手が一瞬だけ動きを止め、次に音の正体を引き出すように緩慢な動作で指をサメの腹から引き抜く。
「紙ですね」
剣持の二本の指に挟まれていたのは小さく折りたたまれた一枚の紙であった。二つ折りになった手のひらに乗るほど小さな紙は剣持から月ノの手へと渡る。
「開きますよ…?」
月ノの言葉にひまわりと剣持、葛葉が小さく頷く。
三人が頷いた事を確認した月ノは自身も一度頷き、ゆっくりとその小さな紙を開いた。
そしてその整えられた細い眉を寄せる。それは如何にも「意味がわからない」といった表情で、それを見ていたひまわりも思わず首を傾げてしまう。
「……なんて書いてあるんすか」
葛葉の声に月ノはそっとその紙を四人の真ん中に差し出した。
「“もうそろそろ、寝る時間”?」
剣持と葛葉の声が揃う。
小さな紙に書かれていたのは“もうそろそろ寝る時間”の文字のみで、他には一切何も記されていない。それが何を示しているのか、四人には理解することが出来ず揃って首を傾げる。これは、何を意味しているのだろう。
鮫島の部屋にはただ四人の息遣いと時計の秒針が正しく時を刻む小さな音だけが響いている。
ひまわりには、それがどうしても居心地の悪いものに思えて仕方がなかった。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月9日 15時