さくせん懐疑 ページ23
ち、ち、ち、ち
会社のミーティング室に響く秒針の音は葛葉に当たり、跳ね返り、戻ってくる。
広い部屋の中央に置かれた四角いテーブルの4辺に1人ずつ。葛葉、ひまわり、月ノ、剣持。
4人が集まったのは他でもない、鮫島の挑戦状について話し合うためである。
しかしいざこの場に集まってみれば誰も口を開くことはせず、その頭の中でどのような思考をめぐらせているのか他者に伝えることをせず、ただ沈黙が重く沈むだけ。
24時間と53分前、予告無しにツイッターに落とされたひとつの爆弾が解除する間もなく弾け飛んだ。
トレンドは関連の言葉で埋まり、指し示された動画の視聴回数は止まることを知らず伸び続ける。葛葉たち4人の元へは疑問の声が絶えず飛んでくる。
しかし、葛葉は何一つ理解出来ていなかった。
鮫島が死に、そのアカウントはもう動くことは無いはずだった。それなのに、動いた。冗談で死を扱うほどこの会社は廃れていないはずで、実際、集まるように連絡をくれた社長である田角もなにも知らないようであった。
挑戦状が何のためのものなのか、それが何を意味するのか。内容も目的も、なぜ葛葉たち4人が指名されたのかも全くもって、全てが分からなかった。
彼の殉職を世間が知ってから2週間の間人間としての生活を放棄していたひまわりを病院へと運び込み、医者に言われた言葉は「精神的なストレスによる思考の滞り」。幸い症状は栄養失調と水分不足までに留まっていたため病院のベッドで1晩休み、点滴を投与するだけでひまわりの体は以前のようにとまではいかないものの回復の体を取った。
それなのに、今度はコレだ。
ひまわりはそれを知ると同時に「そっか」と一言呟いただけで、それ以上このことに関することは話そうとしなかった。
葛葉の向かいに座る剣持は風邪を拗らせていたらしく、まだ潤みがちな瞳がぼぅ、と机を見つめている。表情は顔の3分の2を覆う白いマスクのせいで読み取ることは出来なかった。
右隣に座っているのはにじさんじを代表するライバーである月ノ美兎だ。以前顔を合わせた時は定規でも貼り付けているのではないかと思うほどに真っ直ぐ伸びていた背筋を猫のように丸め、大きく世界を写していた瞳は寄せられた眉のせいでまつ毛が暗く影を落としている。
葛葉の知る3人とは、全くの別人である目の前の人間が葛葉の心を強く殴りつけた。
…なんでこんなこと
渦巻くトパーズを細める男が葛葉の脳をよぎり、消えた。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月9日 15時