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彼女の目がまぁるく見開かれ、それから左右にちらちらと揺れる。
「ね、どうです。お互いの利益のため、契約しませんか?」
「それは、私たちが付き合ってるフリをして、告白をされないようにする、って事…?」
おずおずと問いを口にした須永さんにできる限りの優しい笑顔で、大きく頷いてみせる。
「さすが、頭の回転が早くて助かります。これ、結構良い話だと思うんですけど」
「…まって、少し考えさせて」
「どうぞ…あぁ、でも今日、この仕事が終わるまでにお願いします。僕、明日クラスの女子に呼び出されてるんですよ」
きゅ、と目を瞑り顎に手を添え考え込む彼女の顔を見つめる。教室に差し込む夕日が、長く細いまつ毛で真白い頰に影を作り、艶のある艶やかな黒髪が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。それはなんとも幻想的な眺めだった。
と、彼女が顔を上げた事で僕と彼女の視線がかち合う。
「…契約、しよう」
それは確かに彼女の口から発せられた言葉。あぁ、今この瞬間から彼女と僕は恋人となったのだ。もしそれが、契約なんて口八丁に乗せられた決断だとしても、紛れもない事実。
「よかった!じゃあこれから僕たちは恋人となったわけです」
「恋人って…お互いの利益のため、でしょ」
ふいと顔を背けそう言う彼女に僕は首を振った。
「ダメですよ須永さん、いくら偽の恋人とは言えこれは契約。「学校の人たちに僕らが付き合っていて、間に入り込めそうにない」と思わせるのが僕らの義務です。手始めに名前で呼び合うなんてしてみます?」
「えぇ、そんなことしなくても、付き合ってるって言えばそれで良いんじゃ…」
「甘いなぁ、違うんだよそれじゃあ。僕らは色恋に興味がないからそう言えますけど、須永さんも知ってるでしょう、恋愛に関しては犬並みに鼻のいい奴らを」
僕の言葉に須永さんは少し考えるように上を向いた後、「…あぁ、」といって頷いた。誰を思い浮かべたのかは分からないが、とにかく納得してもらえたようだった。
「だから、そこらを騙すんです。そうすれば噂はどんどん広まっていく」
「そしたら、告白はされないで済むし、断る理由もできる」
「そういう事です」
ね、いいでしょう?
須永さんはぎこちない動きで頷いた後「じゃあ、これからよろしくお願いします、彼氏の、刀也くん」と、小さく笑った。
「よろしくお願いします、彼女のAさん」
なんて上手くいったんだ。その日、その時間から、僕らの契約関係はスタートした。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時