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僕が彼女に契約を持ちかけたのは、何も利益が十割というわけではない。
いや、言いようによっては僕と彼女の利益差は天と地ほどに開くかもしれないが、とにかく僕はただ「告白を受けるのも毎度断るのも面倒臭いから」なんて理由で他人を巻き込んだりはしない。
「僕たち、付き合ってみませんか？」
1週間前、一年の頃クラス委員をしていた名残か、クラスも委員会も部活も異なる僕たちが雑用を言い付けられていた時。
僕が放った言葉に彼女は数秒間フリーズした。
「け、剣持くんと、私が？」
「はい」
「え…？え？付き合うって、え、恋愛的な、そういう意味で？」
彼女の目を回さんばかりの混乱ぶりに、彼女の新しい面を知った気がして、笑みがもれる。そうして、僕は彼女の問いに「NO」と答えた。
「確かに、須永さんは容姿も良いし、勉強も運動も申し分ない。素敵な人だとは思いますが、僕が今言ったのはそういう意味じゃない」
「…はぃ…？」
ますます混乱、といった様子で首を傾げる彼女。
「ビジネスです。」
「びじねす」
「そう、ついこの間、あなたがいってるのを聞いたんです。"告白をされるたびに断るのは、なんだか申し訳ないし、正直に言うと面倒くさい"って」
さぁ、と須永さんの顔から血の気がひいていく。
その様子を見て、僕は確信した。「押せばいける」。
「驚きましたよ。文武両道、容姿端麗、性格の良い学校一のかわいい女子で通っているあなたがそんな事を言うなんて！」
「それ、は、みんなが勝手に…もともと、そんな良い子なんかじゃ…」
少し声を張り上げてみれば、震える声で反論してくる。
それが、なんとも子うさぎの悪あがきに見えてしまい、僕はますます気をよくした。
「えぇ、えぇ、そうでしょう。誰だって人には見せれないいちめんが一つや二つ、あるものです。僕だってそうです」
「ぇ」
「須永さん、知っているでしょう？僕が学校でどう言われているか」
「…才色兼備、ノリが良くて優しくて、関わった女子はみんな、一度は好きになる」
彼女の口からでた言葉があまりにもちゃちなもので、応えを知っていたにもかかわらず、思わず鼻で笑ってしまう。
「そんな大層な人間ではないことは、自分がよく知っていますけど、そう言われる所以があると言うことも知っています。正直に言いましょう、僕も煩わしいと思っているんです」
「…なに、を」
「恋愛ですよ。誰が好きとか誰と誰が付き合ったとか、正直どうでも良い。
だから、契約しましょう」
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作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月2日 17時
