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「…はい、須永です」
ど緊張。
声が震えているのが自分でもわかる。
「はいもしもし、え？もしかして寝起きですか？」
「うぅん、ごめん、なんか緊張しちゃって声上手く出なかった」
「今更緊張？僕相手にする必要ないでしょう」
「…あは、あるんだこれが。人と通話するの初めて」
「えっ」
意外だっただろうか。まぁたしかに、私は友達が多い方ではあると思うし、繋がっている人の人数だけで言えば、多すぎて今すぐ必要最低限を残して消してしまいたいほどに。
驚くことなかれ。私は今までの人生電話という文明の利器を親子間以外で使ってこなかったのだ。
「じゃあ、僕が初めてですか」
「うん、お母さんとはしたことあるけどね」
「なかったら怖いけどな…うんまぁそっか…」
母親の声なんてよくよく耳を澄ませて聞いたことがなかったから、その差にも気が付かなかったけれど、電話越しの声というのは一段と低く聞こえるものなのだろうか。
「電話の声、おもしろいね」
「悪口か？」
「えぇ…受け取り方ひねくれてるなぁ、なんか普段より落ち着いてる気がする」
「あぁ全然ここで声張ってAさんの鼓膜破ることもできるけどね」
「普段より攻撃力も段違いだね？」
くつくつとひそめた笑い声。
鼓膜を震わせる低音がいつもより低くて心地がいい。あぁそうか、彼はいつも声を張りがちだけど、電話ならその必要もないのか。ただ耳に馴染んで私の心を溶かすだけの、優しい声。
顔が見えないからか少し砕けた口調に少なからず彼の知らない部分を知った気がして嬉しくなる。
そこには、電波に乗せたから、だけじゃない優しさが確かにあった。
「…電話で話すことって、あんまりないね」
「まぁ、寝るための通話だし、いいんじゃないですか」
「ああぁ、まって、恥ずかしい…よくあんなこと言えたよね私…ごめんねありがとう」
いやほんとうに。よく言えたと思う。なんで言ってしまったのかとも思う。思い出すだけで、恥ずかしさで死んでしまえる。
「まって、どうしよう、はずかしい…」
「自分で言って自分で照れないでくださいよこっちまで恥ずかしくなる」
「あの時刀也くんだって顔真っ赤だったくせに」
「…うぅん、まぁ、うんまぁまぁ」
「誤魔化すの下手？」
初めてかもしれないな、と思う。
家の中でここまで体から力が抜けるのは、久しぶりだ。暖かい部屋の中で、話しているだけなのに瞼がとろとろと落ちてくる。
おかしいな。
眠くて、寝てしまいたいなんて。久しぶりだ。
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作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月2日 17時
