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「…履けた？」
「は、はけました」
「行こ」
教室を出てからすっかり口数の少なくなった彼がまた私の手を引く。やんわりと握られた私の手はひと回りも大きい彼の手で覆われている。テーピングの巻かれたそれはやっぱり少しガサガサとした触感がする。
じぃとその一点を見つめていればいつの間にか地面がクリーム色のタイルからコンクリートへ変わっていてついに学校の外へ出たことを知った。
ザ、ザと鳴る2人分の足音。ドクドクと鳴る私の心臓。段々とその音が大きくなっていって、耐えられなくなった私は彼の背中に声をかけた。
「あ、あの」
「なんです？」
「…なにかしゃべってほしい、です…あと、」
並んで歩きませんか
やはり、近頃の刀也くんは随分と距離が近い。2人で帰るのは、初めてではないけれどこんな風に手を繋ぐなんて、彼の温度をこんなに長い間感じるなんて、初めてだ。
何も言わずに私の隣に並んだ刀也くんと私の距離は肩が触れ合うほどに近くって、うっすらと香ってくる自分のものではない柔軟剤の匂いに頭がぽわぽわと馬鹿になっていく。
刀也くんが態とらしい咳払いを数回こぼした。ちらりと視線を向けてみるも、彼の顔を前を向いたまま。
「…手、いやでした？」
「ぁ、いや、じゃないです」
「…そう、それなら、良かった」
「…なんで、手、繋いだの？みんなのまえで」
「Aさんが、僕の手見てたから繋ぎたいのかと、思ったんですけど」
違いました…？
なんで、どうしてそんなに優しい声を出すの刀也くん。今はまわりに誰もいないんだよ。演技なんて、しなくて良いんだよ。それなのに、なんで耳を真っ赤に染めてるの。
ばかみたいに心臓がなって、頭の中がくらくらしてくるの。
いつもの君はどこにいったの。挑発めいた発言をして、人を小馬鹿にしたみたいに笑って、憎たらしいのに、ちょっと可愛い。そんな君は、どこにいったの。
「ちがいません、でした」
「…ふふ、僕やっぱり気が効く男でしょう」
「本当に気が効く人は、自分で言わないよ、」
じゃあ、Aさん限定で
あぁもうやめて、私は寝不足なんだよ。判断力が無いんだよ。理性だって弱いんだよ。
ねぇ、笑わないで。
そんなに優しく、笑わないで。嬉しそうにしないで。
勘違い、させないで。
これ以上はこわいから、不安だから、
好きに、させないで。
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作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月2日 17時
