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「…あ、」
駅前のコンビニを通り過ぎた時、刀也くんがふと足を止めた。その目線を辿っていけば弱い風にはためく広告旗があって、そこには「苦すぎないカフェ・オ・レ期間限定発売中」の文字。
これは、刀也くんが春休みになるたびに私のクラスにやってきてりりむちゃんと私と刀也くんと、たまに伏見くんでご飯を食べるようになってから気がついたこと。
彼は、かなり甘党だ。
私と彼が十割の確率でお弁当を持ってきているのに対し、伏見くんとりりむちゃんは十割購買でお昼を購入している。刀也くんは、2人が甘い菓子パンを買ってきた時に限り「それ、どんな味ですか?」と聞いていた。そのあと二人に一口食べたいの?なんて揶揄われるのをわかっていながら。
「…寄っていく?」
「え」
「セブン、カフェオレ気になるんじゃないの?」
「…うん」
目を逸らし小さく頷いた彼の手をそっと引っ張りコンビニへと向かう。学校から駅までの所要時間は徒歩20分。そしてここまで来るのに既に15分が経過しているわけで、その間ずっと触れっぱなしである彼の温度に私は慣れつつあった。
初めのほうは刀也くんの方が余裕な表情…とも言い難かったけれど、まだ余裕そうだった。途中、彼の親指が私の手の甲をすり、と撫ぜた時には私の心臓は破裂しかけたのだ。それなのに、今はその逆。むしろ、私の方がこの状況を楽しんでいた。
繋がれている手をぎゅっと握ってみれば肩が跳ねる。バッグが肩から落ちるからと手を離せばもう一度、二つが繋がれるまで手を差し伸べている。極め付けには、「そんなに照れるなら、なんで手なんか繋ぐの」これに対しての「僕が、繋ぎたいからですけど」なんて小さい返事。
なんだか、おかしくなってしまいそうだった。
これが演技なのだとすれば、彼は確実にハリウッドスターになれる。というより、意図的に耳を赤くするなんてハリウッドスターにしか出来ない。
けれど、これが演技でないのなら。
ないのなら、なんだというのだろう。刀也くんが私のことが好きということになってしまう、気がする。
私に引っ張られるがまま着いてきた彼をちらりと盗み見る、と
「ぇ」
思わず体が固まった。
彼の大きな瞳が、ばっちり私を写している。突然に絡んでしまった視線は、なんだかずらし難くて。私たちは数秒間、コンビニの前で見つめ合う羽目になってしまった。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時