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ぱらぱらと教室の窓に散らばる雨粒の音と湿度の高い空気。
金曜日の五時間目に組み込まれたロングホームルームは、文化祭の出し物を決めるのだろう、教室中がざわめいている。
そんな中私は津波のように寄せてくる眠気に呑み込まれる寸前で必死で留まる。それが繰り返された。意識は朦朧となり、うねりとなっていったりきたりしていた。
そろそろ、本当に寝なければ危ないかもしれない。
そう分かっていても目を瞑った途端押し寄せる光景が、恐ろしくて寂しくて悲しくて、どうしてもこの時期は眠れない。
じめじめとした匂いが充満するこの季節に、不眠症の症状が現れるようになってから既に4年目。それだというのに、私は毎年寝不足ゆえに体調を崩し、去年なんかは文化祭が終わると同時に倒れてしまった。
親への連絡を必死で大丈夫だからと止めたことを覚えている。
今年は同じようなことになってはいけないと、無理矢理仮眠をとってはいるものの、やはり悪夢で目が覚めてしまい朝まで眠れた試しがない。かといって授業中に居眠りなんてもってのほかであるし、悪夢を見ないなんて確証もない。
ぼんやりとした眠気が体の中心から渦を巻いている。段々と霞んでいく視界の片隅で、トパーズとサファイアがごった煮になったような緑が煌めいて、ふと彼の言葉を思い出す。
あんまり無理しないこと
そういえば、刀也くんはまるで私のことを本当に心配しているみたいな顔をしていた。眉尻が下がり、いつも自信に満ち溢れる瞳を優しく溶かした彼の顔が、寝不足の体には嫌というほど染み込んでくる。
彼の手が頰に触れたとき、思わず泣きそうになった。
乾いたテープ越しに伝わる確かな熱が、自分のものよりひと回りも大きい骨張った手が、ずぶずぶと体を飲み込む底なし沼から掬い上げてくれるような、そんな希望を抱いてしまった。
あの日、わたしたちに背中を向けたあの人が、最後に見せたあの顔に。最後に触れた時、感じた温もりに。最後の幸せに。
彼のそれはよく似ている。
きっと、あれも契約のうち。
ちがう。
私のためじゃない。
契約が果たされないなんて、あってはならないですからね
彼が、そう言ってたじゃないか。
けど、でも、それでも、
もう一度、あの暖かな手に、彼の優しい手に触れたい
そうしたら、眠れる気がするの
寒くなくなる気がするの
こわく、なくなるの
「…ねむたい」
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作者名：でん太郎
| 作成日時：2022年10月2日 17時
