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「もうすぐ文化祭の準備始まっちゃうね」
「もうそんな時期ですか、あっという間だ」
「剣持のクラス何やるか決まった〜?」
「いや、全く。多分今日決めるんじゃないかな」
「りりむね〜、メイド喫茶やりたい!」
「あー、りりむっぽいな確かに。…Aさんは?」
なんだか眠気の強い金曜の午前中。机に膝をつきぼんやりとしていたところ、唐突に振られた話題に「え」と声をもらし、顔を上げる。りりむちゃんと刀也くんが、不思議そうな顔で私を見ていた。
「ごめん、ぼーっとしてて聞いてなかった…なんの話?」
「んとねぇ、文化祭何やりたいって話?」
「あははっなんでりりむちゃんも疑問系?んー、私は…楽しければそれでいいかなぁ」
「えぇー!じゃあメイド喫茶にしよ!」
きゃっきゃと笑うりりむちゃんの横で、刀也くんは私の事をじぃっと見つめていた。それに気がついたのはふいと向けた視線がかち合ってしまったとき。目があってしまったからには下手に逸らす事もできず、そのまま見つめ合う事数秒間。
「なんか、疲れてます?」
「え、そうみえる?」
うん、寝てなさそうな顔してる。するりとテーピングの巻かれた長細い指が私の目元に滑る。
私が刀也くんの体育着を着てしまってから2週間と少し。刀也くんの狙い通り私たちの関係は学校中に広がり、最近では知らない人に「剣持の彼女じゃん」なんて声のかけられ方をするようになった。そして、刀也くんは、あれ以来随分と距離を詰めてくるようになった。廊下ですれ違えば声をかけるのは以前からそうだったけれど、最近ではそこに触れ合いが追加された。次の授業頑張ってなんて頭を撫ぜられてみたり、何もせずにただ刀也くんの懐に収まり頭を顎置きにされてみたり。その種類は様々だが、なんだかずっと、距離が近い。
しかも、それだけではなく刀也くんの私のクラスへの出没率が格段に上がった。刀也くんと仲の良い伏見くんを連れてくることもあれば1人で来ることもある。そして、決まって彼は廊下側の席に座る私に、「こんにちは」と声をかけるのだ。
そうして、話す時間が増えたことによって多分、彼の口から敬語が発される事も減った。というよりかは砕けた口調で話すことが増えた。
今も、「最近ぼんやりしてるけど、寝れてない?」なんて。
誰にも気づかれなかったのに。ちゃんと元気にしてたのに。
「ううん、大丈夫。昨日少し夜更かししちゃっただけだよ」
「…それならいいんですけど」
彼が心配そうに眉を下げた。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時