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「そういえば、刀也くんのクラスはどんな企画やるの?」
「僕のクラスはカジノですよ」
「カジノ…!?お金賭けるってこと?」
「あぁいや、流石に。何か一つ、自分の大切なものを賭けるんです。まぁ大切なものっていうのは名前だけでなんでもいいんですけどね」
「大切なもの…シャーペンとかでも?」
「まぁ、それでも。…いやAさんの大切なものってシャーペンなんですか?」
「いや、流石に」
「当日、りりむと回るんでしょう?」
「ぁ、うん、ごめんね一緒に回れなくて」
「うん、シフトが合わないのは仕方ない。まぁ、まさか2日ともとは思わなかったけど、気が向いたらきてください。ディーラー剣持刀也がお相手しましょう」
「あはは、似合わないなディーラー剣持刀也」
「ひどくない?」
彼とそんな会話をしたのは文化祭まで1週間を切った金曜日のこと。部活帰りの彼と合流して帰路につく。
かれこれ既に3週間ほど、彼とは登下校を共にしているわけだけれど、これが中々、私にとっては魅力的な時間となっていた。
刀也くんの話は面白い。彼の身の回りの出来事を始めとしたいろいろな種類の思想の話、難しい定理の話、くだらない豆知識。一緒に歩いている間、彼は自分一人では考えもしないようなことを面白おかしく話してくれた。思わず笑ってしまうようなそれらは四六時中私の中で渦巻く眠気とだるさを一瞬の間だけ吹き飛ばしてくれる。あと、たまに繋がれる手の温もりが、頬を掠める優しさが私の不安を溶かしてくれた。
そんな彼との行き帰り20分が、私の中でいつのまにか、なくてはならない大切なものになっていて、
「Aさん」
ふと、彼が足を止めた。それに合わせて振り向けば彼はじぃと私を見つめている。
「…どうしたの?」
「Aさんが、何に悩んでいるか、僕は数週間ずっと考えていました」
思わず息を止めた。彼は寸分違わず私の目にその強い視線を送り込んでくる。私の悩み。彼は、「私が何悩んでいるか考えていた」と言った。決して「何かに悩んでいるのか」という問いではない。私に悩み事があることは、彼の中で決定事項になっている。ばくばくと心臓が音を立てて、背中に冷たい朝が伝う。嫌な、感じだ。彼の横にいるだけで自然と浮かんだはずの笑みが、すっかり消え去ったのを自分でも悟る。
取り繕え
まだ、大丈夫
彼には、彼にだけはバレたくない
私の弱さを
私の黒さを
絶対に、見せてはいけない
「…悩み?私、悩みなんて何にも無いよ?」
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時