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「彼氏が先に来るのは当たり前です。遅刻もしてないんだから気にしない」
「…うん、ありがとう」
ころ、と笑った彼女の目元に昨日よりも一層濃くなった隈。やはり寝れていないのだと再確認する。
昨日下校を共にして得た情報といえば彼女の親は少々…いやだいぶ、彼女を厳しく育てたということ。それは主に母親の方であり父親は多少寛容らしいこと。
確かに彼女はその言動の節々から育ちの良さが滲み出ている。歩き方や座り方、言葉遣いから始まり箸の持ち方、食べ方、文字までも。これまでに僕が綺麗だと思った彼女の仕草はそんな教育の賜物らしい。
しかしそれだけだった。家が厳しいからといって彼女が眠れなくなるわけがない。その教育方針はきっと彼女が幼少の頃からのものであるはずで、それが今更彼女の悩みになるだろうか。いや、悩みが原因かすらもわからない。隣の家からの騒音だとかの可能性もある。彼女が住んでいるといっていた地区は高級住宅街であることで有名だからそれはなさそうだけど。
とにかく、情報なんてそう簡単に手には入らない。
「Aさんは毎日この時間に?」
「うん、勉強って学校でやると進みやすくて。刀也くんは毎日朝練なの?」
「いえ、毎週土曜練習の最後に来週の朝練予定を知らされて、週4くらいかな」
「スゴ…」
この時間朝練と同じ時間ですよ。Aさんは自分が毎朝早く登校していることを忘れているらしい。恐ろしや〜…なんて声を震わせる彼女に笑みがこぼれる。
「Aさんが毎日この時間にいたなら僕とどこかですれ違っていたかもしれませんね、朝練この時間だし」
「あ…実は私いつもあと2本前の電車で来てて…」
「2本前…?」
10分おきに電車のくるこの地域。彼女は20分も前に駅に着いていることになるのだけど…。
「それは、平気だったんですか」
「何が?」
「今日、この時間にしてしまって」
僕に合わせてくれたんでしょう?
朝練があるなんて嘘をついている僕に、自分の予定をずらしてまで。
「あぁ、全然。普段も学校着いたあとしばらく本読んだりしてるし、今日は本読まずに始めれば問題ないかな」
「僕も、Aさんと同じ時間に行ってもいいですか?」
「え、もちろんいい、けど…」
「ありがとうございます、じゃあ明日から6時50分に駅前で」
「あ、うん、分かった…?」
頭上で疑問符を飛ばす。こうして僕はまたしても強引に彼女と登校を共にするという、男子生徒が雁首揃えて羨みそうな権利を手に入れたのであった。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時