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平日の朝も早い7時。しとしとと降り止まない雨を改札前の競り出た屋根のようなもので凌ぎながら、僕はかれこれ20分は僕の彼女を待っていた。
待ち合わせは7時10分。昨日、別れ際に僕が無理やり取り付けた約束だった。僕は剣道部の朝練があるから好都合だと言って「朝自習するために早く行くから…」と申し訳なさそうな顔をして今にも誘いを断ろうとする彼女を丸め込んだ。
もちろん、剣道部の朝練なんて無い。朝練がある日に朝一緒に行こうといって、相手をその時間に付き合わせるなんて我儘はいけない。
それにしても、流石に早く着きすぎた気がする。Aさんは待ち合わせよりも前に来るようなイメージを勝手に抱いていたけれど、実はそうでも無いのかもしれない。
うん、多分そうだ。Aさんは見た目噂よりもずっと、友達とする馬鹿騒ぎが好きなタイプだったから。これからも僕が彼女に抱いているイメージは少しずつ崩されていくのだろう。
昨日、「ありがとう」と、駅からは自分と真反対の方向へ進むことになる僕に、小さい声でそう言ったAさん。
それは、肉まんとカフェオレに対するお礼だったのか、もしくはコンビニを出てからやけに彼女の表情が柔らかくなったことに関係しているのか。
とりあえず、その時の彼女の顔がほんのり朱に染まり、控えめに見上げられた瞳はいわゆる上目遣いで、その破壊的な存在にすっかりやられた僕は「じゃあ、お返しに明日の朝一緒に登校してください」なんて申し出たのだ。
今の僕ならそんなに短期間の間に距離を詰めれば僕が彼女を想っていることも、彼女の様子がおかしいと感じていることも、その理由を探ろうとしていることもバレてしまいかねないから、とそこで手を引いただろうに。少し、調子に乗りすぎでは無いか、昨日の僕。
「っとうやくんごめんお待たせ」
…いや、よくやった昨日の僕。
突然にかけられた声に振り向けば、そこには長い黒髪を高くひとつに結い上げたAさんがいて。思わず息を呑む。普段は髪に隠れて見えない小さい耳とふっくらとした白い頬、それから細いうなじ。おい僕を殺す気か?
「…刀也くん?」
「…おはようございます。待ち合わせの7時10分まであと5分もありますし、僕も今きたところですから」
嘘だけど。彼女の申し訳なさそうに潜められた眉間に人差し指を当てがい軽く押し付ければ「んわぁ」なんて声があがった。
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作者名:でん太郎 | 作成日時:2022年10月2日 17時