命の宝石【d!】 (ページ1)

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　祖父が死んだ。

　死因は老衰だった。享年八十歳と近年のこの国の平均寿命からしてみれば少し若くして亡くなってしまったが、まあ大往生であったのではないかと思う。
　前代未聞の戦争国家を作りあげた元総統と言うだけあって、彼の訃報は国内どころか世界中に広まった。世間の反応は三者三様で、彼の死を嘆く者もいれば喜ぶ者もいた。国民は皆葬儀に参列したがったが、本人の意向ということもあって葬儀は血縁者と彼と親しい者のみで行われた。

「まさかグルさんが真っ先に死ぬとはなぁ」
「でも良かったんちゃう？最近は寝たきりやったし、これで向こうでも全力で戦争出来るやろ」
「グル氏やったらほんまにやりそうで怖いわ……」
「お前はグルッペンみたいに育たなくてよかったよ。戦争狂はあいつだけでいいからね」

　葬儀後の宴会で、彼の総統時代の幹部達は口々にそう言った。彼等も年老いている為高校生となった今でこそあまり会わなくなったが、小さい頃はよく一緒に遊んでもらったものだった。ひとらんらんの"グルッペンみたいに育たなくてよかった"は彼の口癖で、曰く、"あんなのが二人もいたら堪らない"らしい。

「それ、貰ったんやな」

　ふと、トントンが首に掛けていたペンダントを指した。つられて首元に視線を落とすと、蒼い雫型の宝石が銀色のチェーンに吊るされてキラキラと輝っている。
　これは亡くなる直前に祖父から渡されたものだった。それが祖父がいつも身に付けていたものだと知っていた自分は、祖父が既に死を悟っていることに気付いてポロポロと泣いた。祖父はそんな自分の頭を優しく撫でると、いいか？と真っ直ぐに青い瞳をこちらに向けて言った。

『それは私の仲間だ。お前が助けて欲しいと願うなら、きっと力になってくれるだろう』

　彼が息を引き取ったのはその翌日のことだった。

　あなたの頷きにトントンはふっと微笑むと、大事にしいや、とあの時の祖父と同じように頭を撫でた。その瞳には悲しみの色が浮かんでいたが何となく、自分にはそれが祖父を死を悲しんでいるわけではないように見えた。
　その後もそれぞれの近状や祖父との思い出等を話して、その日は解散となった。