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4.晩蝉 ページ5

あれから、俺は彼女に恋をしている。

1年半、君を愛し続けている。

クシャッと笑うAの笑顔を遠くで見るだけで、胸から混み上がる幸せが口角に現れてしまう程である。

でも、愛しているからこそ独占欲は付き物で。

その手に触れたいとか、
背中を見ると抱きしめたいとか、
俺に笑いかけて欲しいとかを、
ふとした時に感じてしまうのだ。
今だって、ほら。

君が俺に「優しいね」と言ったせいで、

こんなにも、暑い。

炭「他は躊躇(ためら)うことなんてことないのに…告白する勇気のない俺は…」

伊「おい!紋治郎!!」

振り返るとそこには、伊之助が立っていた。
シャツのボタンは一切閉じていない。
四季関係なく元気な彼の様子を見ると何時でも微笑ましいというのに、今日の俺は彼を羨ましがる。

伊「何してんだよこんなとこで!」

善「恋バナだよ恋バナ。」

伊「あ?花ァ?」

十分今でも幸せだと言うのに、
Aまで俺の心に残ってしまえば卒業式なんて想像したくなくなる。

どれだけ俺は、君を好きなんだろう。
分かってしまえば後戻りは出来ないだろう。
あの笑顔を、また見たい。
あの時のように、もう一度……。

炭「君は、本当にずるい……」

そう、ぼそっと独り言を吐いた。
こんなにも俺をダメにしてしまう君の魅力が、心底憎くてたまらない。
だがそれと同時に、とても愛しい。


友「カラオケ行かない!?A!」

「いいよ!私の美声を聞き給え!」

すると、隣から友達と絡むAの声が聞こえた。
俺には話している内容が聞こえなかったが、
善逸にはこう聞こえたそうだ。

"何人で行く?禰豆子も誘う?"
"カナヲちゃんも連れて行こうか"

ガタンッ!

その瞬間、酷暑で溶けてしまいそうだった善逸が
急に正気に戻り立ち上がったと思いきや、
冷静な顔をして俺と伊之助に言う。

善「……………ねえカラオケ行こう?」

伊「あ?カラオケ?何でだよ」

善「いいから。」

炭「俺はいいぞ!3人で行こう」

耳のいい善逸は、俺と伊之助と喋りながら、
その女子達の集合場所や時間を聞き取って、
俺達に自然と言う。

「「じゃあ、駅前のカラオケで!」」



Aを見る度に俺の心で何時も切なく鳴る晩蝉(ひぐらし)は、この日を境に止んでゆく。

今思えば、この時の善逸には感謝しているよ。

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作者名:勉強したくない | 作成日時:2019年9月20日 21時

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