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炭治郎side
善「むりいいい暑いい」
炭「本当だな…汗が滝の様に……」
善逸がアイスを食べながら発狂する。
流石の俺も耐えきれない暑さだった。
ミーンミンミン、ミーーン……
嗚呼、
この虫の音を聞けば、いつでも夏が思い出せる。
光に反射されたプールの水面が教室の壁に写り、
部活動のコールが遠くから聞こえる。
恋人を連れて下校する青春なんてない、と唸りながら日々を謳歌していた、あの夏を。
鬼滅学園というこの個性豊かな学校は、
中高一貫の為に校則は厳しい。
先生の熱気にですら溶けそうなのに、
夏は余計に厄介である。
だが、俺が厄介なのは先生達では無かった。
死にそうになる、この季節。
俺はきっと、あの
…この恋に。
女「きゃっ」
善「え?あ、ごめっ…!」
すると、善逸がクラスメイトの女子とぶつかった。
夏バテのせいか頭が回らなかった俺達は、反射する力が衰えていた。善逸は女子に触れたことにも困惑して遅れたそうだが。
重い荷物を持ったその女子がグラリと体制を崩して横に倒れそうになる。
炭「あぶっ…!」
その横には勉強机があって、そのまま倒れれば頭に机の角をぶつけてしまう!
咄嗟に動いたが、それは遅かった。
目の前を、冷たい風が吹いた。
その風に乗って、爽やかな葉の匂いが通り過ぎる。
ガンッ
その途端、瞬時に机を蹴り飛ばす音が聞こえると、荷物の紙がフワフワと飛び、ファイルは大袈裟な音を立ててばらまかれた。
「っと……」
誰かが自分の頭の上に乗った紙を取ると、
その顔が見えた。
女子を庇ったのは、短髪で色白の彼女。
Aだった。
「大丈夫?」
女「えあっ…!うん…!」
女子の危機を直ぐに察知したのか、
頭がぶつかっていたであろう机は前方に蹴り飛ばされている。
彼女は重力に従って倒れそうになった女子の右肩を右手で掴んで、腕の中に収める。
善「ごっっ、ごめんねえ!痛かったよねぇ!
気ぃ抜けてた、ごめんねぇ!」
俺と善逸は散らばった荷物を慌てて集める。
「ちゃんとしてよ。我妻」
何故だろう。
俺の方が心拍数が上昇している。
その優しい声と緑の匂いが、俺をどうにかする。
「竈門も、」
炭「っ」
俺が拾った紙を、細い親指が掴んだ。
驚き、ゆっくり、前を見る。
時が一瞬、止まる。
蝉の音が、止まる。
嗚呼、君は。
「優しいね」
ミーンミンミン、ミーン…
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作者名:勉強したくない | 作成日時:2019年9月20日 21時