8call 君の優しさ ページ9
家の電話が鳴り響く。花京院くんが日本を出てから、早数日が経っていた。
「もしもし」
「もしもし、ぼくさ。A」
「の、典明くん?」
別れの手前、彼は下の名前で呼ぶように催促した。何度か挑戦はしたものの、下の名前で人を呼ぶなんて初めての事で羞恥が上回った。
「きみは緊張しすぎだよ。たかがぼくの名前だろう?」
「そんなことないよ、花京院くんの名前だからこそ、緊張するよ」
「ほら、ぼくだって君の下の名前を呼ぶんだ。ぼくも少しばかり気恥ずかしいよ」
電話の向こう側で、笑いが漏れる。彼の笑った顔が見たい。それは、惜しくも叶わない。
「典明くん……」
「ふふ、それでいいよ。あ、そうだ。ぼくが今どこの国に来ているか分かる?」
「え?エジプトじゃないの?」
彼はエジプト行きの飛行機に乗ると、行っていた。電話を掛けて来た時間からすれば、もう着いていてもおかしくない時間だと思う。
「実は飛行機が墜落してね」
「え、えぇ⁉そ、それは大丈夫なの?」
「ああ、この通り、ピンピンしてるさ。墜落先が香港だったんだ」
何だか、この一連の出来事に巻き込まれてから生命の危機に瀕しすぎている。頻度が高い。典明くんが平気だと言うのなら、平気なんだろう。
「そうなんだ」
「香港で、奴のスタンド使いと戦ったよ。ぼくと同じで、操られていたんだ」
DIOという因縁めいた吸血鬼に、肉の芽という細胞で操られていた典明くん。惨いことをすると、関係の無いわたしまで恨んでしまう。
「ポルナレフって名前でね。調子づいてるけど、いい奴だよ」
わたしの知らないところで、命を賭して戦う彼。どうか無事に帰ってきて欲しいと祈ることしか出来ないわたしは、心底無力だった。
「じゃあえっと、旅の仲間が増えたの?」
「うん、心強いよ」
それでも、祈らずにはいられない。彼のいなくなった後の世界なんて、想像出来ない。
「気をつけてね」
「当然さ、Aも身体には気をつけて」
わたしの心配なんて、してる余裕ないのに。どこまでも、典明くんは優しい。
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作者名:山葵しょうちん | 作成日時:2017年10月4日 2時