5call 前を向いて歩くこと ページ6
罵倒されるのだと思った。口汚く罵られるのかと、痛いところを突かれてわたしが傷つくのかと思った。
「あ、でも、花京院君が誰かと付き合っても平気?」
「それは、もちろんです」
「ごめんね、こんな所に呼び出して。花京院君といると話しづらいかなって思ってさ」
じゃあね、と明るく理科室から出て行く真田さん達。驚いた、派手な人達って嫌な感じじゃない人もいるんだ。
そんなことを考えていると、足音が聞こえてくる。急いでいるようで、急いでいないような。ハッとする、教室に戻ろう。花京院くんが、待ってる。
理科室から出ようと扉に手をかけながら足を踏み出すと、何かとぶつかる。それは温度があって、少し硬いけど柔らかいもの。
「雨宮さん、大丈夫?というか、大丈夫だったかい?」
その正体は花京院くんだった。心配そうな顔をして、わたしの目を見る紫色の瞳。いつ見ても吸い込まれそうになる。
「あ、うん。平気だよ、特に酷いこと言われたりとかもしなかった」
「え?じゃあ一体なにを聞かれたっていうんだ」
「わたしが花京院くんと、その、付き合ってるかどうかを聞きたかったみたい」
そう言うと、花京院くんは少し照れ臭そうに目を逸らす。そしてすぐに口を開く。
「良かった。君が何か、悪いことに巻き込まれたんじゃあないかと心配したよ。ただ……」
「ただ?」
その、と口ごもらせる花京院くんの瞳は、少し揺らいでいた。言おうか言いまいか迷っているんだろう、彼にとっては迷惑だったのだろうか。
「ぼくと恋人同士に間違えられるのは、君にとって迷惑じゃあないかい……?」
恐る恐る、という表現が似合うほど、彼は小さな声で言う。紫色の瞳は、不安を滲ませる。
「ううん、全く」
「そうか」
ホッと彼が胸を撫で下ろすと、昼休み終了のチャイムが鳴る。
「行こうか」
頷いて、下を向いて歩き始めると背中に手の感触があった。疑問に感じて、花京院くんの方へ見上げると彼は口を開く。
「君はいつも下を向いているね。俯くとさっきみたいにぶつかるし、危ない。それに、折角可愛らしい顔をしているんだから、前を向こう」
小さい子を嗜めるように花京院くんは微笑む。それがなんだか、嬉しくて言う通りにする。
「こう?」
「そう、あと背筋も伸ばして。そう、そうすれば危なくないだろう?」
花京院くんはにこにこと、わたしに教えてくれる。花京院くんは、前からこういうところがあった。
前を向いて歩くと、新鮮な光景だった。
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作者名:山葵しょうちん | 作成日時:2017年10月4日 2時