12call 知らない一面 ページ13
「なかなか面白かったじゃあないかッ!」
珍しく声を張り上げる花京院くんを見ると、彼から引き出されることの少ない、子供のような表情をしている。花京院くんは年齢に似合わない、大人らしさがあった。
映画のチケットを握り締めながら、映画館特有のフカフカのソファから立ち上がる。
「ラストの締めが最高だったよね」
実を言うと、わたしは映画どころではなかった。もちろん映画も観ていたが、あまり見ることの出来ない花京院くんのキラキラ輝く瞳を逃すことは出来なかった。
「花京院くん、今までで一番楽しそうだね」
正直に伝えると、花京院くんは呆然とする。パチパチと目を瞬かせると、彼は口を開く。
「それはきっと、ぼくが初めて友達と映画を観たから、だと思う」
照れ臭そうに笑う花京院くんから零れ落ちた言葉が嬉しくて、泣きそうになった。
「ちょ、ちょっとお手洗いに行くね」
あまりの恥ずかしさに逃げ込んだ先のトイレにある鏡に映った自分の顔は、あまりにも赤かった。でも、それはお互い様だと思う。
顔を冷やしてトイレから戻ると、花京院くんが少し年上の女性に話しかけられていた。
「友達と来ているので……」
「そのお友達も一緒でいいから、是非」
所謂、ナンパというやつで困り果てる花京院くんと引かない女性。
「花京院くん、ごめんなさい、待たせちゃった」
わたしにできる助け舟は、こうして姿を表すことだけだ。彼女の表情を窺うと、一気に気まずそうにしている。
「女の子だったのね。ごめんなさいね」
わたしは、横槍を入れるのが不得意だ。そもそも、友達がいたことがないからこういった出来事の対処法が分からない。
「みっともないところを見せてしまったね」
「上手に追い払えなくてごめんなさい……分からなくって、どう言えばいいのか」
花京院くんは、そっと下を向いてたわたしの顔を両手で挟んで、上へと向かせた。
「君の過ちじゃあないんだから、気を負うことはないさ」
その時見た瞳は、優しさと慈愛で満ちていて、わたしをどこまでも許してくれた。
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作者名:山葵しょうちん | 作成日時:2017年10月4日 2時