４７・・・３５ ページ47
・
「サトシ、聞いてる？」
何も言わないサトシの顔を覗きこんで、唖然とした。
「うそ…寝ちゃったの？」
痛みに耐えかねて気を失ったのかもしれない。
苦しげな表情のまま、微かに聞こえる呼吸音。
サトシの額の汗をそっと拭ってやり、カズは寝台の傍に座り込む。
(熱が出てきたな)
はーっ
「くそっ」
掻き上げた前髪をそのまま握り締めて俯くカズ。
(だからイヤだったんだ。こうなることは分かってた)
サトシが公爵邸に帰った後、カズはすぐさま使者を立てた。
(気をつけて見ててくれって言ったのにっ)
執事長にサトシの様子から危険信号となる行動が起こったら、必ず自分を呼んでくれるよう頼んでいたのだ。
(こんな状態になる前に呼んでくれなきゃ意味ないだろ)
深夜、サトシの苦しげな息遣いに気付いてカズは目を開けた。
うつらうつらしていた自分に眉をしかめて、急いでサトシを覗き込む。
「サトシ、どこか苦しいの？」
(丸薬飲ませたから熱は引いてきたのに…)
そっと声を掛けるが、目を覚まさない。
(悪い夢か。いったいどんな夢があんたを苦しめてるの？)
そっと額に手を当てると、突然カズの頭に流れ込んでくるサトシの中のイメージ。
(っなんだこれ)
あまりにも目まぐるしい変化について行けないサトシの心がもがいている。
――イヤダ
――――クルシイ
――ヤメテクレ――モウ――
――――ドウシテ――オレ――ハ――
――ヤメテ――
痛いとか苦しいとかそういったものが遠い別世界のことのように実感のない身体、その奥で心だけが取り残されている。
その声は何処にも届かず、ただ闇に吸い込まれて行く。
(心が麻痺した訳じゃない)
(奥深くに閉じ込めただけだったのに)
(あんたの感受性が誰より強いこと、俺は知ってたのに…)
カズの肌が粟立つ。
空恐ろしい、漠然とした恐怖に満ちた、底なしの闇がサトシだけでなく、カズをも飲み込もうとしている。
「なんなんだよっ」
カズは引きずり込まれそうになるのをなんとか踏みとどまり、サトシの額から手を離すと素早く呪句を唱える。
「ダメだ、サトシ。呑み込まれないで」
そして今度は慎重にサトシの額に指を押し当てた。
「どこへも行かせないから」
カズは眼を閉じて精神を集中させ、サトシの夢の裾を掴むと無理やりその底なしの闇からサトシを引っ張り上げた。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 225人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
bunkichi(プロフ) - AKIRAさんこんにちは。心が通じ合ってる大宮のお話しも大好きです。ほんとにこの2人は一心同体だよね。魘されてる原因がもう1つあるんだね。上級魔道士ニノちゃん、なんとかしてあげて〜！ (2020年7月18日 5時) (
レス) id: b3195af20e (このIDを非表示/違反報告)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - bunkichiさん» bunkichiさん、こんばんは。この数回の更新は四男とのエピ。不機嫌なふりしてめちゃめちゃ心配してる（笑）ここは元のお話を大幅に書き直しました。だって大宮だもん。大好きなシーンになりました。いちごじゃないけど楽しんでもらえたらいいな。次は移行しま〜す！！ (2020年7月18日 1時) (レス) id: 4512a7e1db (このIDを非表示/違反報告)
bunkichi(プロフ) - AKIRAさんこんにちは。更新ありがとう。ライさんが亡くなった後、智くんは周りの人から非難されたりして辛い目に合うのかと思ってたから、少し安心しました。心の傷も体の傷も癒えてなくて苦労してるけど、がんばって健気だわ。続き楽しみにしてます。 (2020年7月11日 11時) (レス) id: 6cd85052c0 (このIDを非表示/違反報告)
bunkichi(プロフ) - えー！まだまだ辛いですって！智くんがかわいそうな目に合うのは慣れてるし、逆に可哀想で萌えちゃうから大丈夫。楽しみにしてまーす。 (2020年6月28日 19時) (レス) id: 6cd85052c0 (このIDを非表示/違反報告)
ＡＫＩＲＡ(プロフ) - bunkichiさん» bunkichiさん、こんにちは。過去編も中盤（え、まだ中盤？）樹海から戻った長男に次の試練が…。そうです。まだまだ辛い！！可哀想だけど、さらに頑張ってもらいます。面白くないかもしれないけど、大事な課程なので。そして付き合ってもらえると信じてます（笑） (2020年6月28日 17時) (レス) id: 4512a7e1db (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ＡＫＩＲＡ
| 作成日時：2020年6月6日 1時
