白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…２東京編 (ページ10)

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東京のラボで治療することになったサトシは今、無菌室に閉じ込められて一歩も外へは出られない、窮屈で不安な日々を送っている。

ここに連れて来てすぐ、細心の注意を払っていたにも関わらず重度の感染症を発症してしまったサトシは、一時はその命すら危ぶまれる状態になった。

その原因はサトシの特殊な体質に一般的な治療では対処できないことが多すぎて、後手後手に回った結果だった。
何とかもちなおしたけど、やたらと制約のかかる病院ではリスクが高すぎた。

当初、治療は傘下の病院から医師を往診に来させるようカズは手配してたんだけど、俺がサトシの主治医として治療と研究を並行することにした。

「ジュンくん、そんなに欲張ってどっちも中途半端なんて許さないよ」
カズが睨むように俺を見据えて釘をさす。

「わかってる。俺が主治医として治療した方がはるかに安全で効率的だって判断したんだ」

サトシは俺にすべてをゆだねてここに来た。だからそんなサトシを裏切るようなこと絶対にしない。契約違反になりかねないからカズには言えないけど、俺はサトシの治療をするためにここへ連れてきたんだ。薬の研究のためなんかじゃない。

「サトシ、気分はどう？」
完全滅菌してサトシのいる無菌室に入る。

髪はきっちり隠してゴーグルにマスク、それに手袋っていう格好で取り敢えず採血して、その検査数値を確認する。その間サトシは神妙な顔でベッドに腰掛けて俺の顔をじっと見つめて待つ。

「よし、数値の上昇確認。ここから出て大丈夫」
「ほんと？やった」

子どもみたいに喜ぶ顔に胸が苦しくなる。ちょっと熱が出たり体調が悪くなると、まずは無菌室に入れて感染症にかからないようにしなくちゃならないし、体調が良くてもラボの外へ行けるわけじゃない。結局、サトシは村にいた頃より、ずっと不自由な生活を強いられてるんだ…

「今日はこの前の続きをやりたかったんだ」

無菌室から出るなりサトシはスケッチブックを取り出した。
サトシが暇つぶしに印刷用紙に鉛筆で落書きしていた絵が物凄く上手くて、驚いた俺はすぐにスケッチブックとペンを買ってきて、サトシに渡してやると夢中になって絵を描き始めた。

ほんとは絵具も買ってやりたかったけど、残念ながら化学物質が大量に含まれていてサトシには触らせてやれない。ペンだって本当は危ないけど、インクを厳選してあるから安全だ。