白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…２東京編 (ページ20)

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「ジュン、何か薄い布と鈴か何か、音のなるモノないかな」

サトシは部屋に戻って準備を始め、俺はクローゼットを探って大判の寒色系のグラデーションになったスカーフ二枚と土産にもらったいくつかの鈴付きのキーホルダーを渡す。

「こんなのしかないけど、いい？」
「うん。十分だよ。ありがと」

サトシはスカーフ二枚の角を結んで繋げるとその先にキーホルダーを結ぶ。
そして、着ていたセーターを脱ぐと俺の白シャツに袖を通して何回か折り曲げてたくし上げた。

「こんな感じでいいかな」
姿見でチェックして振り返る華奢な身体は相変わらずで、俺のシャツはぶかぶかだから、まるで羽織のように見え、白装束に近い印象を受ける。

「ああ、いいんじゃないか」
リビングに戻るとマサキ達がテーブルを片付け、ソファを移動させてスペースを開けてくれていた。サトシは皆に注目されて、少し恥ずかしそうに笑った。

「…近い…ね」

舞台の上と違ってここは狭いリビングだし、大の男が身を乗り出すように見つめてるのが気になるんだろう。特にカズとショウさんの期待に満ちた眼差しがサトシを戸惑わせているみたいだった。
　
それでも、ゆっくり息を吸い込んで静かに吐き出したサトシは、目を閉じて意識を集中する。

戸口辺りに跪くとぴたりと動きが止まる。途端にサトシが纏う空気が変わる。
その姿が村で見た光景と重なって、俺は滝の音が聞こえてくるような錯覚に襲われた。

サトシから立ちのぼる青く清涼な空気の流れと冷たく澄んだ空気の流れが別世界へと俺たちを誘う。

チリチリチリンチリン

鈴の音が響き、ふわりとサトシが立ち上る。鈴を捧げ持った白く細い腕がしなやかに伸び、さらりとスカーフがなびく。
　
トン
　
微かな音と共に高く跳躍し白いシャツが翻り、薄いグラデーションのスカーフがなびくさまは美しい蝶のようだ。

リビングをチリン、チリンと鈴を鳴らしながら、サトシは重さを感じさせない身軽さでひらひらと舞う。

誰もが息をするのも忘れその姿を追い、まるでこの世界にはサトシ以外何も存在していないかのように静寂に満ちた世界が広がる。

俺たちの存在はその空気に溶けて消え失せる…
　

チリリン

　
もう一度鈴を高く鳴らしたサトシはリビングに跪いて頭を垂れた。