白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…２東京編 (ページ11)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:45,231 hit

１０ページ11

「揮発性のない絵の具があればいいんだけどな」

色の無いサトシの絵はそれでも十分に魅力的で個性的だったけど、やっぱり色のついた絵が見て見たい。そんなことを思ってたから、つい口に出してしまった。
それを聞き咎めたサトシが八の字眉になる。

「キハツ…？」
「そう、揮発性。液体が蒸発することって言ったらわかる？絵具とかだと乾くときに水分と一緒に絵具の成分も蒸発するから、それを吸い込むとサトシは呼吸苦を起こすから危ないんだ」

「ふうん」
「なあ、サトシは今まで学校とかで絵を描いたりしてなかった？」

「うん、小学校で絵具使ってたよ。でも六年生になって身体の不調が続いて、休むことが多くなってきて…ほとんど学校に行けなくなっちゃったんだ」

「中学もおんなじで、結局先生が神社に来てくれて勉強を見てもらった。
すぐ具合の悪くなるおいらを神官様がずっと面倒見てくれたんだ」
　
そんな子どもの頃からずっと苦しんできたあなたを俺はまた苦しめることになる…体調が安定してきて免疫力がもう少し上げれば、次の治療を始めなくちゃならない。

「ジュン…？」
　急にだまりこんだ俺に不安そうな顔を向けて近寄ってくるサトシ。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事。せっかくの絵も白黒じゃ淋しいなと思ってさ」

「そうかな。だったら草花で作った色水なんかで色をつけようか。
神社にある水墨画にね、薄っすら色が付いてるのがあるんだよ」

「優しい色で、何で塗ったらそんな色が出るのか神官様に聞いたら、草木染の染料を使ってるんだって教えてくれた。それなら苦しくならないで色が塗れるかな」

「その手があったか。今度探してくるよ。俺、サトシの描く絵に色を着けてほしいんだ」
勢い込む俺にちょっと驚いた顔をした後、サトシは声を立てて笑った。

「そんなに？」
「ああ、そんなに。俺はカラフルなサトシの絵が見たい」

「ふふ、わかった。
じゃあ、ジュンがそれを持ってきてくれるまでに、どんな絵にするか考えとく」

俺はサトシのいる電磁波対策を施した居住区と治療室、その隣のラボとを行ったり来たりしている。そうやって過ごしていく日々は悪くないものだった。ここを提供してくれたカズに感謝だな。

マサキは月に二、三回はここへやって来て、変わらない笑顔で園児たちの可愛いエピソードなんかを身振り手振りで話し、サトシを笑顔にしてくれる。そんなマサキがいるからサトシは頑張れるんだろう。