白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…１出会い編 (ページ10)

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８　（Ａ　ｓｉｄｅ）ページ10

だけど、俺はそんなサトちゃんを無理やり引っ張ってつり橋を渡った。

痩せて弱ってたサトちゃんを引き摺るようにつり橋を渡って、ちょうど真ん中あたりに来た時だった。その日、台風が近づいててずっと強い風が吹いてたんだけど、突風でつり橋が大きく揺れ出したんだ。

俺はバランスを崩して足を滑らせた。

一瞬体が浮いたような気がして、ああ、落っこちるんだなって思った時、がくんって衝撃があって俺は腕を掴まれて宙ぶらりんになってた。

見上げれば、腹ばいになって俺の腕を掴むサトちゃんの苦しそうな顔があった。

「…っ」
「サトちゃん…」
「や…だ、マーくん、落っこちないでっ…死んじゃ…やだっ」

ぽたぽた落ちるサトちゃんの涙が俺の頬に零れ落ちて、その温度のせいで強張った身体に力が戻った気がした。
俺は必死でもう片方の手を伸ばして両手でサトちゃんの腕に縋り付いた。
左手をつり橋の綱に巻きつけて歯を食いしばって少しずつ身体をずらしていって、サトちゃんは俺を引っ張り上げてくれたんだ。
　
サトちゃんの右肩は俺のせいで外れちゃって、綱を巻きつけた左手はひどい内出血で色が変わってて…つり橋の真ん中で動くことができなくなった。

結局俺たちは大人に見つかって連れ戻されたんだけど、誰も俺たちを怒らなかったのが子どもながらに不思議だった。

閉じ込めてたくせに、痛みで朦朧としてるサトちゃんをそっと抱きあげて大事そうに運ぶ村長の背中をはっきり覚えてる。
　

その後、聞いたんだ。なんでサトちゃんが祠に閉じ込められてたか…
次の神事からはサトちゃんが踊り手になるんだって。
そのために祠に十日間閉じ込められて、決められた食べ物と水しか与えられなかったんだって…

なんて言ったっけ…ケッサイ…？
俺のせいでサトちゃんはあと二日の我慢だったのに、もう一回やり直さなきゃならなかった。

「マーくんが無事だったからいい…もう一回やり直しても平気」
　
肩と腕を包帯でぐるぐる巻きにされたサトちゃんはそう言って笑った。

村の人たちはサトちゃんの父ちゃんが亡くなったのは神罰が下ったんだって信じてて、
サトちゃんを神様に渡さないってこの村から連れ出そうとしたせいだって…

だから、俺に何も教えてくれなかったみたい。