白妙の衣は薄紫の花に埋もれて…１出会い編 (ページ3)

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俺は新薬の研究と臨床を専門とする研究所に勤める研究員だ。

親の仕事の都合でアメリカ在住時、中学、高校を飛び級して大学を出た俺はこの研究所で最年少だった。

そこで俺は名ばかりの先輩方にこき使われて、入所してから一度も取ったことのなかった有給休暇を嫌がらせも兼ねて十日間とって、いわゆる秘境といわれる山奥へ行くことにした。
険しい山に囲まれた渓谷にある小さな村で、そこの神社での神事を見たくてはるばるね。

ことの発端はというと…

アメリカの大学で知り合った民俗学者のショウさんに見せてもらった動画でこの神事を知った。
まあ、いわゆる神楽と云われる音楽に合わせて巫女が舞うんだけど、その時にご神体である刀を振るって舞う『剣の舞』によく似たもので、白装束なんだけど黒子みたいに顔を隠して舞う巫女の姿が妙に印象に残ったんだ。

夢のように舞うその姿が目に焼き付いて離れなかった。

どうしても直に見たいと思った俺はショウさんにその場所を教えてもらったが、この神事は二年に一回しか行なわれず、翌年まで待たなければならないことがわかって肩を落とした。

「お前、科学者のくせにこういうのに興味持つなんて珍しいね」
そんな俺を見てショウさんが面白そうに笑った。
「科学者って言っても俺の専門は薬学だからな。物理学者とかとは違うんだよ」

「ふーん。まあ好きにしたらいいけどさぁ、ここってすごいとこだよ。
物凄く古いつり橋わたって行くしかないんだからさ。俺には一生行けないところだよ」

「ははは、そっか、ショウさんは高所恐怖症だったっけ」
「いやいや、高所恐怖症じゃなくたってあれは怖いって。
普通の感覚持ってる人なら誰でも足が竦むはずだから」
　

力説するショウさんに取り敢えず同意して、詳しい場所を教えてもらった俺はすぐにその村について調べ、次に神事が行われる時期に合わせて長期休暇を申請した。
その神事の時には村を出て行った人々も大勢戻ってくるという。

幸い時間は十分すぎるほどあったから、ネットを駆使してその村出身の男と知り合いになることに成功し、帰省するときに便乗させてもらう約束まで取り付けた。