風男塾であり幼馴染であり (ページ34)

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第四波　曜介目線ページ34

まさか桃が来るとは思わなかった。

桃は時々とんでもない行動力を発揮する。
中野風学園なんかより高いレベルの学校だって入れたのに俺がいるからって一緒に来た。
俺は親に決められた進路と別の道を行きたかっただけなのにね。
全部自分で決めたかったから、最終的には桃を、風男塾のみんなを裏切る結果になっちゃったんだ。

ごめんねって言ってももう遅いけど。

「曜くん、ちあきに会えるかな。話がしたいんだけど・・・」
「それはちょっと・・・」
「せや。うちの女子寮、男子禁制や。もちろん逆も」
「しかも桃、制服だし」

まあそうだよね・・・と桃は肩を落とした。
鞄にはビーズで作られたガン○ムのフィギュアが揺れていた。

「・・・そんなの持ってたっけ？」
「あ、これ？従兄弟のお兄さんが作ってくれたんだ。いいでしょ」

ずいぶん器用だな・・・これビーズか・・・
ん？ビーズ・・・？

「桃、ちょっと、頼みがあるんだけど」
「え？なに？」
「ちょっとお使い」

桃は不思議そうに首をかしげた。
愛刃はじゃあいくわ、といって走って寮に行ってしまった。いつの間にか浦さんも虎南さんもいない。いてもいなくても変わんないけど。

「ついてきて。たぶん平気だから」

俺は桃の右腕をつかんで寮に向かって歩き出した。

・・・・・・

「広いね・・・」
「ほんとは二人部屋だからね」

ほんとは二人部屋。
ここに夏休み前まで狂平がいた。
挨拶もなく、彼のすべての荷物が消えてしまった。

・・・いや、すべてではない。

ほんの一つ、忘れ物があった。

「これ、狂平に届けてほしいんだ」

黒い細長いケース。
これが狂平唯一の忘れ物。
・・・もしかしたら狂平のものじゃないかもしれないけど。

掃除をしてたらベッドの下から出てきた。
埃をかぶっていた。

中には紐にビーズが通されただけの簡素な作りのネックレス。
どう見ても売り物ではない。
小さい子供が作るようなものだ。
それを、こんなところに置いといてあるって、大事なものだからかもしれない。

本人のものかわからないけど、届けたい。

「わかった。持っていくね。狂平くんに渡しておくよ」

その笑顔は少し歪んでいた。
狂平は目覚めない。
元から避けられていて、自分の従兄妹がいじめをしていた。

桃は変なところに頑固だ。

ゆっくり受け取る。
大切な物を包み込むように。

「絶対渡すよ。狂くんが受け取るまで」

本当、桃は変なところに意地っ張りだ。