HPが擦り減りゆく【そ.ら.る.】 (ページ18)

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「A～！？買い物行ってきてくれる～？」

一回から母親の大きな声が聞こえた。のそのそと体を動かしてベッドからずり落ちた。ゴンッ、と豪快な音が響く。痛い。

『…は！？もうこんなこんな時間』

時計を見れば夕方5時を過ぎていて、鏡の中のぼさぼさの頭を見て寝ていたんだと気付いた。

「A～？開けるよ～？」

『…あい』

かちゃりとドアノブが開いて、何かメモを持った母が入ってきた。大方食材のメモを渡しに来たんだろう。

「あらら、今まで寝てた？」

『…うん。すぐ行く』

「今日のご飯は肉じゃがです。ここにメモ置いとくよ？母さんこれから友達と集まりがあるから」

『了解』

うちの母は生粋の専業主婦で時間のやり繰りが上手。今日の家事も全て終わらせて行くという事か。つまり私に夜ご飯を作れと。

母が一階に戻ったあとクローゼットを開けて服を探す。地味だからなぁ…私の服達。
引っ張り出したのはごく普通のセーターとズボン。ただ買い物に行くだけだし、こんくらいでよかろう。

『肉じゃが』

作れるかな。中学の調理実習以来か。

班が同じ真冬ちゃんと作ったのだが、あの時はヤバかった。火が食材に燃え移ってボヤ騒ぎ。真冬ちゃんがやったのに何故か私も怒られて不機嫌だったのを覚えている。

ぼさぼさの寝癖を整える。かっちりしてなくていいよね。

スマホと財布をリュックサックに詰めた。

(帰って来たらお金請求しよ)

結構ルンルン気分な自分。はじめてのおつかいっぽくてテンションが上がっている。おつかいは初めてではないけれど。

家を出る時には、もう母は出掛けていた。

…

『…噓だろ』

最寄りのスーパーの前には大きく垂れ幕で

《大幅リフォーム工事中》

とある。ここら辺に食材が揃ってる店はここくらいしかないはずだ。

乗ってきた自転車から降りてリュックからスマホを取り出す。近くのスーパーをググっても、近くはなくて数㎞は距離が離れていた。
頭を抱える。親は今頃友人と楽しんでいるだろうから頼むのは申し訳ない。

びゅうぅぅっとキンキンな風が吹く。もうすぐクリスマスだなぁと思えば、嫌でも思い起こされるのが非リアの事実。去年の様に真冬ちゃんとネチネチリア充に対する不満を呟くのか。悲しみ。

やってやろうじゃないか。と謎の意地が発動した。電車でも自転車に乗ってでも行ってやんよ。

《帰り遅くなるかも》

そう打って

リュックを背負い直す。

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