快晴を翔ける (ページ13)

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垂氷ページ13

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「いやぁ、Aに幻術が効かないとは思わんかったけど、こうして話せるのはやっぱええな」

私の頬に触れながら楽しそうにそう零すトリイくんは、確かに私の知っているトリイくんであるのにどこか知らない人のようだった。
おかしな事は沢山あった。全く覚えの無い顔と名前に、校則違反していても一度も怒られている姿を見ていないし、目のことを聞いた時だって、名前の時もそうだったのかもしれない…思い返せばおかしな点はボロボロと出てきて、一体この世界は何なのかと頭が混乱し始める。

トリイくんは私の髪を優しく撫でながらそんで、と話を続ける。望まない境遇でお前が苦しんどったからちょっとだけ助けたろと思って降りてきたんやけど、と彼はそこまで言って話を切るとお前の本音を聞かせてや、と澄んだライムグリーンで私を見据えた。

不思議なことに自分の意思とは別に口が開くと、そこから自分ですら気付けなかった本音が漏れる。

「どうして私だけ…！私だって沢山頑張った！勉強だって得意じゃなかったのに、お母さんとお父さんのために、いっぱい、っ…」
「うん」
「これ以上どう頑張ればいいかわかんない、ずっと、お母さんの、言葉のままに生きたくないっ…」

もう枯れてしまったと思っていた涙がボロボロと溢れ出す。頬を包んでいた彼の手は止まることを知らない私の涙を何度も拭って、頬を撫でてくれて。冷たい筈のその手がとてもあたたかく感じた。

一頻り私の話を聞いたトリイくんは私の額に自身の額を重ねるとええかA、と未だ嗚咽を繰り返す私に声を掛ける。

「辛いのはお前だけやないんやで」

無慈悲に落とされたその言葉が、ゆっくりと胸に刺さっていくようだった。

【垂氷(たるひ)】
つららのこと。