階級学園【小説】 (ページ35)

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終礼のチェス【市原海斗】ページ35

体育祭四日前。
昨日の椿ちゃんとのランニングを他の生徒に目撃されたらしく、瞬く間にボクの噂は学園中で広まっていた。数日前までヒナに運動を教えてくれと頼んでいた生徒が今ではボクの方に押しかけてくる始末。もうちょっと周りに気を遣ってランニングコースを決めれば良かったな。
体育祭は丁度今週末に開催予定であり、一週間も猶予がない。だから焦る気持ちも分からない訳ではないのだ。
でも放課後教室に押しかけてくるのは是非ともやめて欲しい。
それに今日は体育祭の競技決めもあるから一々断っている暇はない。
毎年恒例が四つ、生徒会から四つ、学園長から二つで計十個の競技があって、今日の放課後生徒会で集まって会議の予定。
こんな体育祭間近に決めることかと思うが、割と階級学園の体育祭はぶっつけ本番な所が多い。

やっぱり、ヒナと会長が居るチームは絶対に運動神経では優勢。
となればその差を覆すには全力で頭をフル活用するしかない。

「ゆきみんは何かやりたい競技ある？」

会議が始まるまではまだかなり時間があるのに、ボクとゆきみんは生徒会室にいた。
放課後絡まれるのが嫌なので、六限目の半分と終礼をサボり、生徒会室にてゆきみんとお菓子パーティー兼チェス大会を開催中だったのだ。

「うーん……特にはないの～。りぃちゃんは何かやりたいのがあったのですか～？」

「ボク棒倒しとかしたい！あと騎馬戦！」

ボクは生徒会だから借り物には出なきゃだし、リレーも多分響夜と一緒に出る事になると思う。
何個も競技に出てたらボクも体が持たないんだけどなぁ……
そんなことを思いながらチョコレートの小袋を破いて口に放り込み、咀嚼して飲み込んだあと、指し手を伝える。

「あ、キングf5ね！」

残念ながらチェス盤が生徒会室に無かったので、仕方なく駒や盤は脳内補完として口頭で指し手を伝えていた。

「キングf7なの～」

「ポーンf3」

ゆきみんが口をつぐむ。今盤上では「ツークツワンク」と呼ばれる状態で、ゆきみんの黒は何を指しても悪手になる。しかしチェスはルール上手番を放棄する「パス」が出来ないから、ゆきみんは分かっていても悪手を指すしかない。投了やむなしだ。

「むぅ……また負けなの……」

ちょっと悔しそうな顔をしたゆきみんが、半ばヤケになりながらお菓子を頬張る。
負けを認めたゆきみんの声と共に、放課後のチャイムが鳴って廊下が騒がしくなり始めた。