たった一人の君へ 。

鶴房汐恩 ページ11

その影が姿を現す



開いた口が塞がらないまま

ただ その人を見上げる






「鶴房…くん、」

『危ないですよ、そんなとこに居たら』






彼は 肩で大きく息をしながら

私を見下ろす


茶髪が少しだけ乱れていた







「あの、どうして」



理由を聞こうとしたら

鶴房くんが 手を差し出した





そんな彼を見上げたまま

ぼーっとしてると


私を見下ろす

綺麗な褐色の瞳が ゆっくりと瞬きをした





彼の手を借りて、立ち上がり

頭を下げる




「ありがとうございます…」




鶴房くんも そんな私につられて

軽く会釈をする





彼が来てくれなかったら

私はどうなっていたんだろう



命の恩人だと、改めて実感した





心の底から 安心した気持ちが溢れて

思わず 彼を見上げたまま笑顔になる




すると、私を見下ろしていた彼は

すぐに目を逸らした


夕日に照らされた彼の頬が 赤く染まる





そして彼は どこか遠くを見つめたまま

また 私へ手を差し出す




『…はぐれたら、危ないんで』




私は そんな彼に頷いて

彼の手を握った



大きくて 温かい手が

今の自分の心にとても沁みた





この出来事があってから

私と鶴房くんの距離が縮まったのは


もう少し先のお話。

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