スパイ生活の幕開け ページ8
司さんにお礼を言って別れた後、部屋をぐるっと見回す。
少し、というかかなり殺風景だ。旧世界では存在感の薄かった壁紙の偉大さをひしひしと実感する。無くなって初めて分かるありがたみって言うやつかも。やっぱり石の壁ってちょっと怖い感じあるし。
シンプルな作りだけど雨風はしっかりふさげそう。この世界で風邪なんて引いたらたまったもんじゃ無い。死を覚悟しても良いくらい、危険だ。旧世界でも新世界でもやっぱり健康は大事なんだな。
部屋に置かれてた草を編んで作られた布団に入ると一気に緊張が溶けた感じがした。寝転びながら今日あったことを一つ一つ振り返る。もうずっと前のことみたいだ。
なんだか物騒な言葉を幾つも聞いたけど、ものすごくシンプルにまとめると風景画を描くということ。そう考えればなんだか出来る気がしてくる。
貴重な復活液を使ってもらった恩を自分の好きなことで返せるのならこれほどありがたいことはない。全然お安い御用だ。
しかも絵を描くことを仕事にできるときた。私にとってこれ以上無いくらいの好条件。素直に嬉しい。
それにしても旧世界での、絵を描くことを仕事にしたいという願いがこんなふうに叶うなんて思ってもみなかった。なんとなく不思議な感じ。
千空さんの生活場所をスケッチして司さんに伝えるのかあ…司さんと千空さんは敵対関係にあるんだよね。なら司さん陣営ってバレたらダメだよなあ…
半分寝ぼけた頭でそこまで考えてはっとした。待って、これっていわゆる、“スパイ”なのでは!?
身柄を隠し、頭領のため情報戦を制す手伝いをする…これってまるまるスパイのやってることだ。
なんだか映画の登場人物みたいなことしてる…
そう考えるとやる気がぐんぐんと湧いてきた。なんか出来そうかも…
スパイという非日常な役職名がつくだけでここまで気持ちが変わるなんて我ながら単純だ。でもやる気が無いよりかは全然良い。ああやばい、嬉しい、早速明日から準備を始めよう。
(そうと決まればまず画材だよね、紙もいるか。あとは…)
明日からすることに思いを馳せているうちに、いつのまにか意識は飛んでたみたいだ。
その夜私は疲れていたからか、スマホを見ていないからか、はたまたそのどちらもか。理由は色々あるだろうけど、せっかく空気が綺麗な世界だから星でも見ようなんて考えは無かったみたいにぐっすりと寝れた。
ーこうして私のスパイ生活は始まった。
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作者名:ハント | 作成日時:2023年3月16日 8時