偉大な発明品 ページ14
翌日、私は朝から絵の具作りの続きをしていた。
当初の想像以上に絵の具作りは難航していて、元々立てていた予定より少し遅くなっている。
そして、ここまで絵の具作りを頑張って置いてこんなことを考えるのもおかしな話なのだが、出来ていく絵の具もどきの量に比例して、この絵の具描けなさそう、という思いが胸の中で膨らんでいった。
紙があれば試し書きができたのだが、あるはずもない。
なんだか色々とうまくいかない。でもまたここで新しい案を考え直すだけの気力も生憎今私は持ち合わせていない。作業を続けるしか無い。
『よいしょっと』
土をいい具合に溶かした絵の具もどきを一度外に運び出す。土器の中に溜まった泥を眺めていると、はあ、と息が漏れてしまった。
『おい、そこの嬢ちゃん！すまねえがちょいと通してくれ』
大量の炭を運んでいる大勢の男性の一人に声をかけられ、気が急くまま退いた。と、ここで半分脳死していた私にある考えが浮かんだ。
『あの！その炭ってどうするんですか』
「今から捨てにいくんだよ。いくらでも貯まるから定期的にすてえねえと邪魔になる」
『それ、貰うことできたりします…？』
恐る恐る聞いてみると変なものを見る目で見られてしまった。けど、いい案が浮かんで軽く有頂天になっている私にそんなことは関係ない。
「そりゃ良いが…いるか？」
『いります！めっちゃいります！ありがとうございます！！』
「お、おう。なんか分かんねえが役に立てたのならよかったぜ」
私の勢いに若干引いていたのは見なかったことにして、炭をゲットすることに成功した。
そう。絵の具なんて高望みしたらダメだったのだ。別に色がなくったって絵は描けるじゃ無いか。
その昔、日本人は白と黒だけで世界を表現して描き記した。
鳥獣戯画のような漫画だって、天橋立図のような絵画だって、どれも白黒だけど旧世界にも伝わっていた素晴らしい作品だ。
昔の人にできて私にできないことがあるか。いくら巨匠だと言っても同じ人間なのだから。
出来るか怪しい完全自己流の私の絵の具もどきより、筆記具として後世から伝わる偉大な発明品である墨にかけた方がよっぽどか合理的なはず。
そして幸運なことに、私は墨作りをしたことがある。この経験を生かさないては無い。
ここまで頑張って作った絵の具もどきを捨てるのは少し心苦しいが、多少の犠牲はしょうがない。
早速私は墨作りのプランを考え始めた。
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作者名：ハント | 作成日時：2023年3月16日 8時
