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No.42 ページ44

「…如何しよう」





時祢はぽつりと呟いた。



太宰が何処かに行ってしまったのだ。



先程人混みの中ではぐれてしまったらしい。



一先ず人混みを抜け、太宰を捜していると、足下に猫がすり寄ってきた。



綺麗な毛並みの黒猫だ。



抱き上げて撫でていると、突然頭上に影が差した。



顔を上げると、其処には着物を身に纏った壮年の男性が居た。



鋭い眼差しに普通の子供なら怯えるかもしれないが、彼女は彼が手に持っているものを見た。





「此の子の飼い主さん?」



「否、只何時も餌をやっているだけだ」



「そう」





時祢が猫を男性に差し出した。



意味を計りかねる男性に、時祢は口を開く。





「撫でたいんじゃなかったの?」





不思議そうな彼女と、少し驚いた様に目を見開く男性。



そして男性は猫を撫で乍ら時祢に問い掛けた。





「一人か?」



「ううん。お兄ちゃんと来たけど、はぐれたの」



「何時だ」



「つい数分前」





兄とはぐれたにしては全く動揺していない目の前の少女を男性は少し懐かしそうに見詰めた。



何時か出逢った少年に少し似ている気がした。





「名は何という」



「時祢」



「私は福沢諭吉だ」



「福沢さん」





敢えて名字を云わなかった事は指摘せず、福沢は頷いた。



時祢は不意に人混みを見て、「あ」と声を上げた。



福沢も其方を見乍ら、「居たのか?」と聞く。



時祢は「うん」と頷き、猫を福沢の腕に渡した。



そして思い出したように云う。





「屈んで視線を合わせた方が怖がられないと思う」



「!…嗚呼、参考になった」






たた、と走って行く時祢を見送り、福沢は腕の中の黒猫を見た。



走って行った時祢は、太宰に思い切り抱き締められていた。

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麗葉 - 大好きすぎて気づいたら四回も?読んでました(笑)体調に気をつけて頑張ってください! (2023年5月2日 21時) (レス) id: 14fd5e9416 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 猫好きさん» 本当にそうよねえ奥さん←←もう先生は私を苦しめようとして来てるとしか思えないですよ…小学校卒業して「よっしゃマラソン大会無い!」からの長距離走があった絶望感…(´・ω・`) (2019年1月1日 23時) (レス) id: 424c23822c (このIDを非表示/違反報告)
猫好き - ホントですよ…マラソン大会とかは真面目に荒そうかと思いましたよ…ホント、やぁねぇ奥さん← (2019年1月1日 20時) (レス) id: fdca804d9b (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 猫好きさん» 大丈夫ですよ!立ち眩みは現在学生の私でも日常茶飯事ですから…………orz 体育の長距離とか本当にもう……………………殺しに来てますよ…(´・ω・`) (2019年1月1日 14時) (レス) id: 3546326a0b (このIDを非表示/違反報告)
猫好き - 1km全力疾走?アハハ…知らないの?僕ヒキニートだから歩くだけで立ち眩みするのw( °∇^)] (2019年1月1日 13時) (レス) id: fdca804d9b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年8月14日 11時

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