第三十七話 ページ41
一先ずわたしは、背を向けて驚きの余り立ち竦んでいるシンタローの頭部を殴って昏倒させる。「瞠る」を強く作ってくれたケンジロウのお陰でもあるかも知れない。或いはゴボウ似の体躯を持つこの男が貧弱過ぎるのだろうか。
わたしは次にアザミを倒すべきだと考え、メカクシ団員の一人を跨いだ。ケンジロウの足下を払おうと屈んだ「冴える」を横目に見る。
大きく降りかぶった拳を降り下ろす瞬間、
ぴたり、とわたしと「冴える」の動きが止まる。ぎこちない動きで首が回って行く。ケンジロウとアザミも同様だった。
そしてわたしの視界に入ったのは、長い白髪を蠢かせた、女王たるマリーの姿だった。
「私の話を聞いて」
有無を言わせぬ口調は、「合体させる」の強制する力の強さを窺わせた。
マリーは、最早不思議の国の少女ではなかった。アリスより寧ろ、赤の女王のようだ。
だが、これ程までに蛇の能力を強力な物として用いている事こそ、マリーの脆さに他ならない。
「冴える」が嘲りを含んだ声色で告げる。
「感情の昂りは能力の暴走を引き起こす。能力の暴走は制御に慣れない者にほど起こり易く、能力の制御に慣れない者は実に消耗しやすい」
その言葉通りに、マリーは辛そうな顔をしている。
「冴える」が女王の統制から逃れたのも、マリーの制御する力が弱くなった隙を衝く事によってだ。だが、自らの体の制御権を取り戻すことが出来たのは強靭な自我を持つ「冴える」だからこそだろう。
そして、今も同じ様な事が起こっている。「奪う」の力が揺らぎ始め、圧倒的な支配が弱まる。
わたしと「冴える」は同時に飛び出した。アザミとケンジロウは未だに「奪う」の影響下にあるようだ。
わたしは喉を、「冴える」は足下を狙う。
今にも膝から頽れ落ちそうなマリーに手を伸ばす。人指し指が触れ、喉を掻き切るような思いで力を込めた瞬間に、
ふと、マリーが視界から消えた。そして、
わたしは、自らの首に走る痛みに気付いた。
蛇のように蠢くマリーの白い髪が、わたしと「冴える」の首をギチギチと絞めていた。
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時