第三十八話 ページ42
しばらく苦しみに呻いていると、どさりという音が聞こえた。頭を動かせないので視神経が千切れそうなほどに目を動かすと、意識を失って崩れ落ちる「冴える」が見えた。自我こそ強固だが、身体はヒヨリの、つまりか弱い女子のソレだという事だろう。
だんだん思考に隙間が生まれてくる。一秒がとても長く感じる。
一秒?
一秒って、何だろう?
何だろうって何だっけ?
意識を手放すほんの少し前、黒く縁取られた視界に、赤く冷たい相眸を捉える。最後の足掻きとばかりに、最悪の侮辱を吐き捨てた。
「…このっ、化物っ…」
遠のいていく意識は、
体に走った鈍い衝撃に呼び戻された。
「がはっ、はっ、ごふ、っは、…はっ」
急に解放された喉で空気を求めると、激しくむせた。
反射的に閉じていた両目をうっすらと開くと、へたり込んで、虚ろに目を見開いているマリーの姿が見えた。
チャンスだ。
「…と、『冴える』なら言うのかも知れないけれど。お手上げです。わたしは少し、疲れ過ぎました」
両手を挙げて、降参のジェスチャー。やっと「奪う」の拘束から逃れたらしいケンジロウがつかつかと歩み寄って来た。すわ、殴られるかと身構えたが、杞憂だったらしく…どころか、ひょいと担がれた挙句に丁寧に椅子に座らされた。
椅子の上でぐったりと気を失っているカノ・モモ・ヒビヤは壊れ物を扱うかのようにそこから下ろされ、代わりにアザミが座り、ケンジロウは「冴える」もまた担いで椅子に腰を下ろさせる。マリーはケンジロウに肩を貸されるのみで、自らで席に着いた。
気まずい沈黙が流れる。恐らくそれを一番強く感じているのはわたしだろう。
誰も、話し出す気配すら見せない。
居心地の悪さに耐えかねたわたしの口から、意識せずに言葉が転がり出た。
「…ごめんなさい」
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作者名:一夏 白 | 作成日時:2017年10月12日 7時