第16話 ページ17
「今日からこの子が新しく訓練に参加します。私は林野不二子です。それじゃ、自己紹介よろしくね」
ウィンクをしてくれた林野先生に水性のマジックペンを渡された。緊張しながら後ろに振り返って、大きなホワイトボードに名前を書いていく。震えそうになる手を抑えながら″天羽A″と書き記し、こっそりと一息吐いてマジックペンのキャップを閉めた。
『天羽Aです、色々わからないことを聞く事があると思います。その時は教えてくださると嬉しいです、どうそよろしくお願いします』
ペコリ、とお辞儀をすると拍手と歓声が湧き上がった。暖かい歓迎に感謝しつつも、やっぱり注目されるのは苦手だと感じて視線を彷徨わせてしまう。
部屋全体をよく見てみると、女子が三分の一、残りは男子の比率みたいだ。他のクラスは男女比が違うのだろうか。牙山さんは女子選手が極端に少ないって言ってたし、もしかして女子ってこのクラスにしかいないいのかも。
私が自己紹介を終えると「本日はミーティング終わり!解散!」と林野先生が声を張った。それと同時に立ち上がった生徒たちが私を中心に輪を作るようにワラワラと集まってくる。
転校生の立場は慣れてるけど、流石にクラスのほぼ全員に群がられた経験はない。人の波に押し寄せられて私はかなり恐怖を感じた。
「僕、田中拓哉!君は何年生?僕一年!」
『えっと、同じ一年生』
「あ、じゃあ俺たちと同じだ!俺は鈴木太郎!」
「あたしはね、佐藤美代子!よろしく!」
(………ん?)
クラスメイトから自己紹介をされて疑念を抱いた。何故、こんなにもシンプルな名前の人が多いんだろう。
大勢の声の中から聞こえてくるのは「山田次郎!」「斎藤ソウタ!」など、馴染みのあるいい名前の人たちばかりだ。
ふとその場にいる人の容姿をザッと観察してみた。ほとんど黒髪黒目でたまに茶髪も混じっている。あと、みんな兄弟かと言いたくなるくらいには顔が似ている人が多い。これでは名前を教えてもらっても見分けがつかない。その違和感の正体を考えていると、私はある一つの可能性に気付いてしまった。
――――モブ。そんな言葉が頭によぎった。
今とても失礼な事を考えてしまったので、頑張ってクラスメイトの顔と名前を覚えようと心に誓った。
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作者名:アスター | 作成日時:2022年8月8日 17時