5 ｢ある、…じ、｣ ページ5
おたわむれですか。
目の前の狐から目を離すことを許されないまま、言葉を脳内に反芻する。おたわむれですか？え、つまり、ふざけてんのかてめえってこと？な、何で？
(心配してるんだけど、)
｢いや、そんなつもりじゃなくて、｣
｢……｣
狐はその目から一瞬燃えたように見えた怒りの色をみるみる消して再び怯え切った態度に戻った。大丈夫かと確認したそれを、ふざけてるように捉えられるなんて意味が分からないし、いや、でも、もしかして、
(傷のせいで、怯えてるだけなのかも、)
もし、もしもだけど、
狐を傷付けたのがあたし以外の、人間だったとして(もしかしたら廊下の血もこの狐のかもしれない)、あたしがそいつの仲間だと思ってたりしたら。人間恐怖症？この傷の度合いはおかしいもん、
なけなしの想像力を働かせて何とか対処を考えるけどあたしはナウシカじゃないし動物の気持ちも心の開き方も全然分からなかった。
あたしもあたしでここにい続けたらいい加減危険だって判断して、こうなったら、もう、と狐の目を見直した。
思い切って息を吸い込んだ。
｢あのね、あたし目が覚めて気付いたらここにいたの。あなたがなんで喋れるのか、…っていうか喋れる動物生で見たのも、初めてなんだけど、…その、ここが何処なのかとか誰の家なのかとか何にも分かんなくて…、あの、本当にそんな怪我してるとこ申し訳無いんだけど、あたし、本当に元いた所に帰りたいの。あたしをここに連れてきたヤツとか、あたしがここに来たとことか、あなた、見てない？｣
｢……｣
｢何だったら、あなたも一緒に逃げない？ここ、絶対危ないし、｣
｢………｣
｢だって廊下に刀だって落ちてたしさ、あなたのことそんなに傷付けた奴もきっと近くにいるんだよね？｣
｢……、ま、…、っ、まさか、…そんな、｣
狐の恐怖に染まった目は、あたしの畳み掛けるような言葉のうち今度はますます最初の時みたいに、驚嘆に変わって、最後には再び信じられないとでも言いたげな表情であたしを見ていた。その顔をしたいのはこっちだと言いたかったが、
｢あなた、…さま、は、｣
狐が何かを言いかけたけど、それが最後まで言われることは無かった。背後で、
｢！！！！｣
ザッと、襖の開く音がしたからだ。
ガバッと振り返りそちらを見る。
もしかして誰かが、
｢ある、…じ、｣
(あたしを、)
殺しに、
…………そこに立っていたのは、一人の男性だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 798人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆり - 面白かったです！！続編も気になります。見てみたいのでパスワード教えて下さい。お願いします(＞人＜;) (2022年5月4日 17時) (
レス) id: a0139c2d82 (このIDを非表示/違反報告)
plus__m(プロフ) - 登場人物達の感情や情景がとても細やかに書かれていて、読んでいるだけなのにその場を身をもって体験しているような気持ちになってとても面白いです！特に緊迫したシーンは息が止まっていることも忘れて読んでました笑。続編の加筆修正終わるのを楽しみにしております！ (2022年4月19日 20時) (レス) @page50 id: 5adad14c72 (このIDを非表示/違反報告)
キャンドル(プロフ) - めちゃくちゃ面白いですね、この作品！続き、楽しみに待っております！ (2022年3月30日 20時) (レス) @page50 id: ff7e3e1da7 (このIDを非表示/違反報告)
白夜ナイ - 続編のパスワードってなんですか？気になるんですがパスワードが分からなくて読むことができません！教えてくださいm(*_ _)mm(_ _)m (2022年3月25日 22時) (レス) id: d118b4d7f4 (このIDを非表示/違反報告)
Momo_Tarou(プロフ) - 鳥さん» 続編おめでとうございます！！！絶対絶対絶対×∞に夜見に行きますので！！！ (2020年2月26日 7時) (レス) id: 55132ee02b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鳥 | 作成日時：2020年1月29日 3時
