僕のモブ友。【時透無一郎】

26話 ページ33

時透無一郎side

「そっか、食べてくれたんだ、嬉しい……ありがとう無一郎くん！」

「…………どういたしまして」

　またこの笑顔だ。正直者で無垢で、そしてこのきらりと輝く丸い目が僕に向けられている。Aってこういう所が本当にずるい。僕は本当にこの笑顔にとことん弱いらしい。胸が暴れそうになるから、ついつい顔を逸らしてしまった。

　(こんな笑顔、僕だけにして欲しい)

　照れて顔を逸らしてしまうのも、ついからかってしまうのもAだけ。正反対な事をしつつも内心そう思っているのはまだ秘密だ。

「……そう言えばこのいちごオレ、私の好きな飲み物だって知ってて買ってくれたの？」

「……えっと、好きそうだなって思って買った」

「すごい！そうなの、いちご大好きなんだ私」

　うん。知ってた。
　実は仲良さげに話してる禰󠄀豆子たちの会話に聞き耳を立ててたなんて言えないけど、Aの好きな物だって知ってたらそりゃ買ってあげたくなっちゃうものだ。絶対秘密にするけど。

　嬉しそうにストローを刺してチューっといちごオレを飲んでいるAを横目で見ながら僕も同じようにカフェオレを飲んだ。しばらくすると、電車が目の前に停車した。

　ぞろぞろと人が降りていく。若干人が多い。人混みにぶつからないようにそっとAの腕を引いて寄せると、安易にポスンと腕の中に入った。

「人多いね、怪我はない？」

「……うん、ありがと」

　自分から抱き寄せておいてなんだが……距離が思ってたより超近い。それに自然と上目遣いになるA。怪我なくてよかったけど、それにしてもいい匂いだなとか変なことを思ってしまったのには許して欲しい。

(……どう言って誘おうかな)

　とうとう電車に乗り込む。家は4駅先で、帰り道はほぼ終盤に取り掛かっていると言っても過言ではない。せっかくこんなに時間があるのに、道草せずまっすぐ帰るのには惜しい。しかもAとだ。
　乗り込んだ電車は人が多くて座れる場所がなく、ガタンゴトンという音だけが響いていた。時折電車が揺れて肩と肩が軽く触れる。1駅目、そして2駅目に停車したその瞬間、僕は思わずAの手を取ってその駅に降りていた。

「……無一郎くん？どうしたの？」

「…あのさ。このまま帰るのすごく惜しいからさ、このまま遊びに行かない？」


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4駅先って言うのは作者が勝手に決めました。
ちなみに夢主ちゃんはもう1駅先まで乗って帰ってるらしいです(設定)

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