I LOVE...【恋つづ/天堂浬】

08 もしあの時 ページ8

午後の外来も終わらせて執務室に戻ろうとスタッフステーションの前を通りかかった時、何故か看護師達ほぼ全員が静かにその場で立ち尽くしていた。
何やら重い空気が漂う中、みんなの視線の先を辿ると、…そこには浬がいた。



「お前向いてない」



机の上で何かを書きながら、浬が平然とした顔でさらりと横にいる佐倉さんにそう告げた。



「すみません、この…っ」

「俺を追ってここに来た。この病院に」

「先生みたいに患者さんを…」

「どーでもいいんだよ！！」



いつもはそこまで感情的にならない浬が、新人の佐倉さん相手に声を荒げ立ち上がった。



「命を預かる、助ける。それ以外はどうでもいい！…ここは患者さんが第一だ。実害出す前に消えろ」



胸に刺さる冷たい言葉を吐き捨てると、呆然と立ち尽くす佐倉さんを無視してその場から立ち去った。



「追いかけないの？」

「…小石川先生」



横から小石川先生にそう声をかけられても、今の私が追いかけても余計浬の機嫌が悪化するに違いない。
言葉を詰まらせて答えに困る私を察してか、ポンポンと優しく肩を叩かれた。



「ま、仲直りは早めにした方がいいよ？」

「…はい」



それ以上、問い詰める事も無く小石川先生は私の横をすり抜けて何処かへと行ってしまった。



ちゃんと浬と話さないといけないって分かってる。
けど、浬が何で怒ってるのかも分からないのに、その状況で話しても解決するのか…。




もし、あの時、


好きって言えてたら何か変わっていたのかな…。

09 消えた少女→←07 嘘

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す