終わらない夏ー完結ー (ページ8)

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08 届け物ページ8

それが無いことに気づいたのは会社に着いてからだ。
いつも鞄の内ポケットに入れていた社員証が見当たらず、鞄のどこを探しても姿形すら無かった。
ヒカルさんの服を拭こうと、同じく内ポケットに入れていたハンカチを取り出した時に落としたと考え、昨日行った映画館に問い合わせしてみたものの、届出は無かったとの回答をいただいた。

後で再発行の手続きに行かなきゃ…。

今日しなきゃいけない仕事がまた一つ増えてしまった。

ー…トゥルットゥルッ

お昼休みが終わり、仕事を再開しようとパソコンのキーボードに指を添えた時、横にある電話から内線が鳴った。
内線番号を見て受付からだと分かったが、滅多に私宛に掛かってくることなんてないのに珍しい。

「お疲れ様です。Aです」

『お疲れ様です。受付ですが、Aさんに来客の方がいらしてます。なんでも、社員証を届けに来たとかで』

「え！」

失くしていた社員証を誰かが届けに来てくれた。
それにも驚いたが、更に驚く言葉を受付から告げられた。

『届けに来た方が、ヒカルと言えば伝わると仰ってまして…』

私は電話を切って慌てて受付へと向かった。

ーーー

一階のエントランスに着くと、受付前のソファーに座る姿が見えた。

「ヒカルさん！」

呼ばれた本人は気づいて後ろにいる私を見てソファーから立ち上がった。

「昨日ぶり」

「なんで、ヒカルさんが…」

ヒカルさんの側まで近づくと、徐にズボンのポケットから何かを取り出して私の前に差し出した。

「社員証。昨日落としてたで」

「ヒカルさんが拾っててくれてたんですね。ありがとうございます」

良かったと安堵してその社員証を受け取ろうと手を伸ばしたら、その社員証は上にひょいっと持ち上げられた。

「…え？」

事態を飲み込めずぽかーんとする私を見て、ヒカルさんは声を押し殺しながら笑っていた。