第115話 何処か遠い処で ページ23
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ある町の昼下がり。その教室では昼休みを教室の一席で過ごす2人の少女がいた。この2人は中学2年に知り合い、性格も真反対で趣味も話も禄に合わないのに妙に呼吸が合った。
今日も弁当を食べる傍らに、いつもの様に、片方の主張が激しい方がもう片方の落ち着いている方に、必死に自分が感じた感動を伝えようと熱弁している。
「それで、この後のシーンがすっごい泣けるんだよ!」
「おー、んで?」
「ふっふ!これを見よ!!」
飲み干したパックジュースのストローを手持ち無沙汰に嚙み潰しつつ、友人の話に耳を傾ける。
その友人は落ち着いた片方の興味無さげな態度に慣れていた。友人は自分のリュックからハードカバーが施された大判の本を一冊取り出し、機嫌よく片方に対面させた。本の重さに机が大きな音を立て、片方はびくりと肩を揺らした。
「これの……あった、このページ!」
ペラペラと瞬く間に捲られる薄い紙がとあるページで挟まれた手に運動を遮られる。
「このシーンでね、新事実が発覚するの。私このシリーズ読んでてずっとあんまり好きじゃないキャラがいたんだよね。そいつ贔屓教師で陰険で性格悪くてしかも敵側で、私ずっとそれだけだと思ってたの」
「なに?実はいい奴だったとか?」
「いや、その性格はまんまその人の地なんだけど、まあこの辺は長くなるから割愛するね」
「長くなるんだ…」
友人の話では、そのキャラは惚れた女の息子である主人公を陰ながら守っていたのだとか。しかもその女はすでに故人となっていて、主人公は嫌いな野郎に瓜二つ。女との共通点は瞳の色だけ。憐れな話だ。
「このシーンで死んじゃうんだけどね」
「ネタバレかよ。私が読んでなくてよかったね」
「ごめんごめん、けどそういう色んな事情を知ってから読んで欲しくてさ!」
「え?読むの?今? まあいいけど…」
友人が指をさした行から読み進めていく。スルスルと文章を目で追っていくと、とうとうシーンのクライマックスに差し掛かった。
______僕を見てくれ。
それが男の最後の言葉だった。
男は主人公の瞳を通して生涯をかけて愛した女を見た。その一言には、男の葛藤も、生き様も、切ない真実も、全てが込められていた。
その人を知ってからまだ数分しか経っていないのに。
話も友人の話以外に何も知らないのに。
どうしてこんなにも胸が締め付けられるのか。
少女は、友人に指摘されるまで目から流れ出る熱に気がつかなかった。
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しう - ネームが、バグってしまってるんですけど… (2022年10月22日 9時) (レス) @page1 id: f32468df16 (このIDを非表示/違反報告)
亜京目(プロフ) - 劉嘩さん» ありがとうございます!自分では面白いのか?と手探りで書いているのでそう言って頂けると嬉しいです。 (2019年7月31日 0時) (レス) id: 7f37cdc276 (このIDを非表示/違反報告)
劉嘩 - 一気読みしちゃいました。面白かったです!!これからも無理をしない程度に頑張ってください!!応援してます!! (2019年7月29日 17時) (レス) id: 8c95e35653 (このIDを非表示/違反報告)
亜京目(プロフ) - えぬさん» ありがとうございます!最近更新停滞気味で申し訳ありません…これからも宜しくお願いします。 (2019年6月23日 18時) (レス) id: 7f37cdc276 (このIDを非表示/違反報告)
えぬ(プロフ) - 今日この作品を見つけて一気読みしてしまいました…!!これからも頑張ってください!! (2019年6月16日 19時) (レス) id: 56c93dfa56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜京目 | 作成日時:2018年12月5日 2時