赤葦京治の寝起きは悪くない【赤葦京治】 (ページ10)

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ゴッ

鈍い音と共に、遠ざかっていた音がうるさいほど聞こえる。

ざわつきと時折聞こえるキャーという悲鳴に、視線を落とすと、彼女が地面にうずくまっていた。

青ざめた顔で部員たちとコーチが駆け寄る。「受け皿」の子たちも地面に尻もちをつき、「ごめんなさい」と涙ぐみながらうつぶせに倒れた彼女を見つめ、半パニック状態に陥っている。

「お、おい、大丈夫かあの子…」

あと0.01秒で俺の足は彼女に向けて動き出していたと思う。

しかしそれよりも前に、彼女はゆっくりと体を起こし、周囲に「大丈夫」と痛みに顔を歪ませながらも笑って見せた。

顔を上げた彼女となぜか一瞬だけ目が合ったような気がした。

彼女はこちらに向かってへらっと笑って立ち上がると、鳴り続ける音楽に合わせて踊りだす。

驚き心配する部員を踊るように鼓舞し、その彼女の様子に駆け寄ったコーチも無言でステージ脇にはける。

戸惑う観客に、手拍子を促して場を元の雰囲気に戻し、以降、何事もなかったかのようにパフォーマンスを終えた。

盛大に湧き上がる拍手に礼をして部員たちは去ってゆく。

その最後尾につく彼女の足元がふらついていたのを俺は見逃さなかった。

「いやすんごかったなー。あれがプロ精神か…」
「落ちたあの子大丈夫か？」
「あの後普通に踊れてたし、案外大丈夫だったんじゃねえ？」
「怪我させた子たちのメンタルやばそー…」
「次どこ行く？ってあかーしどした？」

気づいたら俺の足はある方向へと向かっていた。

「…俺ちょっとクラスの方顔出してきます。」
「おーじゃあまた後でなー」

先輩と別れて、そこへ向かうにつれだんだんと早足になる。

賑わう文化祭の影をひそめる保健室の前に来る頃には、ほぼ駆け足になっていた。

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