赤葦京治の寝起きは悪くない【赤葦京治】 (ページ11)

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ドアを開けてあたりを見渡すと、誰もいない。

つんと鼻を刺激する薬品のにおいが俺を冷静にさせた。

(…何をするつもりだったんだ俺は)

応急手当ならその場でやってもらえているだろう。

保健室に来るにしても、きっと彼女の友人が付き添いに来る。

考えなしに衝動的になった自分に向けてため息をつき、ドアから出ようとすると、トン、と軽い何かにぶつかった。

目の前で人が、弱々しく後ろに倒れていく。

咄嗟にその腕を掴んで支える。

また、薔薇の香り。

「す、いません…」

小さなつぶやきが聞こえ、次の瞬間その声の主が、がくんと脱力した。

慌てて抱き上げて、ベッドに寝かせる。

とても苦しそうに肩で息をしている。体が尋常じゃなく熱い。

傍にあったタオルを冷水で濡らして首にかけ、

慣れない手つきできつく結ばれた髪をほどき、

少しためらったが首元までしめられたボタンを1つ開けた。

冷蔵庫からスポーツドリンクを持ち出しキャップを開けたが、直後、

だらん、と気を失った彼女の前に立ち尽くしてしまった。

自分の首筋に一筋の汗が伝うのがわかる。

……どうする？どう飲ませる？

いや、飲ませなければならない。彼女はどう見ても熱中症、脱水症状だ。

「あ、の…聞こえますか」

返事はないとわかっているのに、怖気づいた俺は虚空に向かって呼びかける。

1秒、2秒。答えは返ってこない。途端に恥ずかしくなって、

この緊急事態に馬鹿なことをしたと数秒前の自分の行いを悔やむ。

うるさくなる心臓を必死で無視する。

意を決してスポーツドリンクを少し口に含み、乾いた小さな唇に流し込んだ。

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