9話 ページ10
来栖くんは、コンビニで、万引きを犯した。
万引きは、本来なら保護者が誠意をもって店側に謝罪し、
被害代償を支払わなければならない。
けど、両親どちらも電話が繋がらなかったようで、学校に電話がかかってきたという次第。
被害代償も、500円玉を支払ってもお釣りがくるくらいだったらしく、
店長さんの妥協もあり、担任である私が謝罪するだけで済んだ。
もちろん保護者の方にもやるべきことはやってもらう。
今は、コンビニの近くの土手に、来栖くんと並んでたそがれている。
来栖くんは制服じゃない。地味なジャージ1着だ。
対して私はスーツ。
「お前には関係ねぇだろ」
「関係……ないかもしれない。
けど、私はあなたの教師。
たった1年だけかもしれないけど、私には君の人生を守る義務がある。
もちろん、君も大人に守ってもらう権利があるし、それを拒否する権利もある。
その権利をどう振りかざぞうと来栖くんの自由。
でも、私に与えられているのは義務。
必ず、それを全うしなきゃいけないの」
「学校は……、俺、辞めなきゃなんないの？」
「それは……前向きに検討していくと思う。
親御さんが退学させるって言ったら、私たちはそれには逆らえないけど」
「あいつらは……、俺のことなんかどうでもいいんだ」
「え？」
「さっきのだって、その証拠だろ。
学校から電話が来ても出なかった。きっと折り返しもしない」
「お仕事が……、忙しいんじゃないかな」
「その言葉、聞き飽きた。
みんななんも知らないくせに、親のこと、知ったような口聞いて」
「来栖くん……」
「俺が……問題起こせば、あいつらだって、俺のこと叱って、心配して、
構ってくれると思って……」
「……っ」
来栖くんの声は、一言話していくうちに
どんどんか細くなっていって、このまま放っておくと消えてしまいそうだった。
だから、私は、自然と抱き締めていた。
存在を確かめるように、強く。
「何して……っ」
「大丈夫だよ、来栖くん。
君を大切に思ってくれる人は、たくさんいる。もちろん、私だってその一人。
きっとこれから、来栖くんには愛する人ができて、
その人も来栖くんを愛してくれて……。
君にはまだ未来がある。
そうだ、来栖くん。プリント、見たよ。やればできるじゃん。
字もきれいだし、まとめるの上手だね。先生、びっくりした。
大丈夫だから……。
来栖くんは、ここに居る。ちゃんと、生きてる」
続く
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作者名：くしこゆ | 作成日時：2021年4月5日 15時
