2話 ページ3
「来栖くん」
放課後、鞄を肩にかけようとしたとき、誰かに名前を呼ばれた。
反射的に顔を上げると、そこには朝探していた、竹咲先生がいた。
竹咲は少し前に入ってきた若い女の先生で、男子はぎゃーぎゃー騒いでいる。
髪は胸くらいまでで、一本に纏めている。
聞かなきゃ、でも、やっぱり恥ずかしい＿＿
ぐるぐると頭を巡るけど、先生が先に話し始めた。
「前の授業のプリント、まだ出してないよね？
来栖くん、二回目なんだけど」
教室から出ていく男子が、俺の目を見てにやにやしてくる。
絶対明日聞かれるよな……
嘘で誤魔化せるかな……
「まさか、まだ終わってないってことはないよね？」
「あ……」
先生の目に吸い込まれるように、声が出てしまった。
プリント、忘れてた。
まだ終わってない。
なにか、言い訳をしないと＿＿
「終わってないのね？」
「あ、はい」
「全く……」
そういう先生の声には、怒りはこもっていなかった。
怒ってないけど、呆れている。
ひとまず、俺は安心した。
「プリント、見せなさい」
「え、あ、はい」
あれから一回も手をつけていない、科学のプリント。
きっと、適当にノートかなんかに挟んでおいたはず。
ただ、空白ばかりのあのプリントを見たら先生はどう思うだろうか。
それなら、見せないほうがマシか。
俺は、机に鞄を置いて、中を漁った。
理科の教科書を取り出して、パラパラめくる。
ずっと先生が見ていて、冷や汗が垂れる。教科書にはない。
ずくにしまって、ノートを取り出した。
ノートを手にとると、紙がノートから少しはみ出しているのが見えた。
「……」
これは、あのプリントだ。
「どうしましたか？」
「……いえ、なんでも」
見せようか、忘れたと嘘をつくか。
俺は、ノートを大雑把にぱらぱらと捲ってみせたあと、
「家に忘れました」
と言った。
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作者名：くしこゆ | 作成日時：2021年4月5日 15時
