もう一人の人斬り玖 (ページ9)

今日:11 hit、昨日:0 hit、合計:14,709 hit

396話ページ9

同じ頃、上下ェ門が戻る、右喜は怒りをあらわにする。
右「お父さん、遅い‼︎」
上「悪い悪い。おーし、央太、今日は笠、何個出来た?」
右「そのカッコウ、また喧嘩⁉︎」
央「……」
上「何?五個。おーし、よく頑張った!後はこの上下ェ門に任せておけ!」
上機嫌な上下ェ門を見て、右喜は小さな違和感を覚える。
右「…………なんか、いいコトでもあったのかな?」
一方で、左之助は一本木の下で表情を暗くしていた。
左「……ちっ、こんなコトに来てまで維新志士(イシンシシ)かよ…何やっても、ウサが溜まる一方じゃねェか____…」
翌日、日が登る頃。
右「出来たァ‼︎間に合ったァ‼︎」
上「ま、俺が本気を出せば、ざっとこんなモンよ。よおし、街へ行くぞ。風呂敷に包め‼︎」
うたた寝をしていた央太も目を覚まし、親子三人、歌を歌いながら街へと向かっていると、畑仕事をしていた老夫婦が声をかける。
「おや、東谷の旦那。大風呂敷かかえて、とうとう夜逃げかい?」
上「バカヤロウ!こんな朝っぱらから夜逃げするくらいなら、不動沢と刺し違えた方がマシだぜ、俺ァ」
右「父さん!」
上「余計な心配せんと、お前達は俺の分までしっかり大根作れ。俺が必ず、今年の秋は安心して暮らせる様にしてやる」
右「もう」
三人が通り過ぎると、老婆は微笑ましそうな、老父は不安気な顔をしていた。
「大変な目に遭っているのに、あの旦那は相変わらずねェ」
「ホント、頑張って欲しいよ。事は養蚕農家だけじゃねェ。宿場おさえられたら、俺等だって、みんな…」
その頃、左之助はかつて畑であった場所にいた。
左「…非道ェな。これじゃ、今年どころか永久に収穫見込めねェんじゃねェか」
右「あーーーっ‼︎ちょっと、あんた、そこで何やってんの!勝手にウチの畑に入らないでよ!」
左「畑じゃなくて、荒地の間違いだろ」
右「うるさいうるさい、いいから出て!」
左之助が右喜をじっと見つめていると、上下ェ門が声をかける。
上「オウ、ハジメマシテ…」
左「…ハジメマシテ」
上「一昨日は娘達が世話になったそうだな。ついて来な。礼に一飯喰わせてやる」
街の一角にある蕎麦屋の前で上下ェ門は右喜達が持っていた風呂敷を持って、別れる。
上「お前らはそこで先に喰ってろ。俺は先にコイツを卸してくらァ」
右「はーい」
一行は店内に入る。
右「央太は何にする?なに?天ぷらそば。あ、あたしもそれにしよ。すいませーん、天ぷらそば、二つ(・・)」
左「オイ、コラ、半デコ」