43話 ページ43
Aは善逸を見送ってすぐ退院になった。
病室で胸にさらしを巻き、隠しが綺麗にしてくれた隊服を着ける。
腰に刀を差して、普段の自分の出来上がりだ。
『……よし』
Aは息を吐くと、病室からしのぶの自室に向かった。
『しのぶちゃん、入ってもいい?』
「ええ、どうぞ」
しのぶの返答を聞いたAは、襖を開けて中に入った。
神経質な類のしのぶは、とても綺麗で、物がどこにあるのか分かりやすかった。
『やっほー』
「どうも」
しのぶは振り返ると、いつもの表情を思い浮かべていた。
その笑顔を見る度に、Aは胸が締め付けられる。
『どう、体調は?』
「どうとは?」
『アオイちゃんが心配してたよ、休んでくれないって』
Aに言われた言葉に、しのぶは顔を逸らして黙り込んだ。
その顔は何かを堪えてる顔をしていた。
『しのぶちゃん』
Aはそんなしのぶの肩に手を置いた。
「Aさん……」
『また、守れなくて、ごめんね……』
Aはしのぶの背中に手を動かして、優しく撫でた。
小さくも、姉の意志を継いだ立派な背中。
その立派な背中に、皆の命が懸かっている。
数にして少なくは無い命の数が、小さな背中に乗っかっていた。
Aは優しくしのぶを抱きしめる。
『いつも無理させてばっかでごめんね。心配かけてばっかでごめん』
しのぶはAの腕の中で言葉を聞いていた。
少しづつ、重たかった何かが崩れていた。
『きっと、炭治郎くんと禰豆子ちゃんが、しのぶの……カナエの願いを叶えてくれる』
しのぶは目を見開いた。
Aはしのぶの背中を優しく撫で続ける。
『ずっと、カナエの意志を継いで、カナエの家を継いで、守ってきてたもんね、しのぶは』
心底憎んでいる鬼。
両親を、たくさんの仲間、継子たち。そして、最愛の姉を鬼に殺されて。
それでも尚、その姉の願いだからと、しのぶは笑うようになった。
笑って、鬼を許そうとした。
そのことが、Aだけじゃない。実弥や宇髄に悲鳴嶼、それから冨岡も皆が心配だった。
『しのぶ、頑張ったね』
しのぶの胸にAの言葉が重く響いた。
Aとカナエは全てが違う。
育った環境も、見てきた世界も、持っている呼吸も、性格も。
何もかもが違う。
それでも、二人は親友だった。
しのぶにとってAはもう一人の姉だ。
しのぶが唯一、甘えられる存在なのだ。
しのぶはAの背中に手を回して、涙を流した。
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作者名:やぁと | 作成日時:2021年10月19日 21時