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34話 ページ34

「煉獄さん、もういいですから。
呼吸で止血してください…傷を塞ぐ方法はないですか?」

「無い。
俺はもうすぐに死ぬ」


Aにも炭治郎や伊之助から視線を向けられた。

だが、煉獄が言う通り、無い。

そのまま、Aもゆっくりと首を横に振った。


「そんな……」

「喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ」


それは、煉獄からの最後の言葉だった。


「弟の千寿郎には自分の心のままに。
正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。
父には、体を大切にして欲しいと」


そこで、煉獄はAを見た。


「石黒A。
どうか、彼と幸せに、鬼のいない未来を生きていけることを、願い続けよう。
……いつか、二人の子を見られる日を、願っている」

『……なんで、こんなこと、今言うかな……』


Aは唇を噛み締めて涙をこぼした。


「竈門少年、俺は君の妹を信じる。
鬼殺隊の一員として認める。
汽車の中であの少女が、血を流しながら人間を守るのを見た。
命をかけて鬼と戦い人を守る者は、誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。
胸を張って生きろ。
己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。
歯を食いしばって前を向け。
君が足を止めても、蹲っても、時間の流れは止まってくれない。
共に寄り添って悲しんではくれない。
俺がここで死ぬことは気にするな。
柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。
柱ならば誰であっても同じことをする。
若い芽は摘ませない」


煉獄の力強い言葉に、炭治郎や伊之助は涙が止まらない。


「竈門少年、猪頭少年、黄色い少年。もっともっと成長しろ。
そして、今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。
俺は信じる。君たちを信じる」


煉獄は泣きじゃくる炭治郎の後ろに、亡き母の懐かしき姿が見えた。


(――母上、俺はちゃんとやれただろうか。
やるべきこと、果たすべきことを、全うできましたか?)


二人は暫し見つめ合うと、母は優しく微笑み、


「――立派にできましたよ」


と、彼の頑張りを認めた。

煉獄が、禰豆子を認めたように。

母も、煉獄の頑張りを認めた。


そして、煉獄は、日が登る中、炭治郎と伊之助とAに、禰豆子を連れて駆けつけた善逸に看取られ、若くしてこの世を去っていった。


いつもと変わらぬ、いや、いつもよりも幼い一人の子供として、母に甘えるような表情で笑って、母が待っている空の向こうへと、旅立っていった。

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作者名:やぁと | 作成日時:2021年10月19日 21時

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